その1 1

 ドスンッ!

 痛そうな音がしたのを、綱吉は眠りの奥深くに居座ったまま聞いた。
 朝六時。
 一般的な中学生が起きるには早い時間。
 勿論、寝汚い綱吉はまだまだ夢の中。
 それでも、家庭教師となったナギサと同じ部屋で寝ていることから、何かに巻き込まれることが増えてきて朝は地獄である上に命の危機を迎えざるを得ないことがある。
 それでも、そんな措置を取られるのは、普段なら七時以降。
 こんな時間に何かが起きるわけが…………

「いってぇ……ぉ? おぉ?? すっげぇ……」

 感嘆の声が漏れ……

「ってか、誰の声ー!?」

 知らない男の声がして、流石にビビッて綱吉は飛び起きた。
 この部屋には赤ん坊と自分しかいないはずで、赤ん坊の声はとても高い声だったはずで。

「……!?」

 そのくるくる巻いたもみ上げさんは、オレのかてきょーの……

「ナギサ〜!!?」

 珍しい、こんな早く起きるとは、と眼を丸くしながら、首を捻った少年は、コクリと頷いた。




「さて、何が起きているのか考えてみようと思う」

 何一つ驚いていないといった感じに、階下から牛乳をマグカップに一杯ずつ綱吉に取ってこさせたナギサは、一口飲んでから言った。

「元に戻ったのかと思ったが、ツナ、確かお前157センチだったよな、身長」
「うるさいな、小さくて悪かったな!」

 どうせ京子ちゃんとも目線一緒だよ!

「いや、まだ中学だろ。気にすんな」

 ま、今のオレも同じくらいだよな、これは。

「確か、158だったのは小学……何年だったか……」

 詳しく覚えてねぇな、とボヤキながらマグカップを傾ける。
 でも小学生なんだ、と綱吉は落ち込みかけて、はたと気付いた。

「小学生って何!? 赤ん坊だろ、お前!」
「ん〜、昔々の話な。でも、せっかく成長したみたいだし、学校行きてぇなぁ」

 先日も綱吉に学校楽しそうだなぁと棒読みで言って怒られたが、その夢を誰かが叶えてくれたんだろうか?
 でも、そうとなれば……

「――あ、もしもし? おはよ。転入手続きお願いしたいんだけど」

 ポケットから取り出した携帯電話で連絡を取る。

「名前は沢田梛沙。ツナと一緒のクラスでいいや」
『ナギサ?』
「そうそう、よろしく」

 電話先からどういう意味? やら、説明してとか、聞こえてくるが、それを今日行くからその時ね、で切ってしまう。


「さぁって、それじゃ奈々さんに言って学校行くか」
「ちょっと待って、ナギサ。何の解決にもなってないし、そんなんでいいの!?」
「一日くらいで戻るんだとしたら楽しまないと損だ」

 チッチッチッ、わかってないなぁ、と言わんばかりに綱吉の前で指を振り、梛沙は笑う。

「もしこのまま成長するんでも、しないんでも、別にオレの生活は変わらないぜ!」

 よぉっし、今日も奈々さんの美味しいご飯を食べるぞー! と階下へとさっさと降りてしまった。


「いや、それでいいわけ? 本当に……」

 綱吉は眉根を寄せてぼやくが、下からさっさと食わないとオレが食うぞー、と梛沙に言われて慌てて降りていった。




「イタリアから転入してきた沢田梛沙です。同じクラスの綱吉の従兄弟だ、よろしく」

 転入如きでおたつくような梛沙様じゃないぜ☆
 ……いや、すまない。ちょっと嬉しくてテンションが上がってるらしい。

「えっと……ナギサさん?」
「獄寺、話は後でな」
「小僧?」
「山本、オレはオレだ」

 声をかけてくる二人に赤ん坊の時と同じ笑いを返せば、納得して引く。

「……いつからナギサがオレの従兄弟になったんだよ…」
「なんか文句でもあるか?」

 溜息を深々と吐いている綱吉にクククッと笑ってやれば、ビクリと反応して真っ青になっている。

「ま、ツナはそのまんまでいいんじゃね?」
「ナギサは性格軽くなりすぎだと思うよ……」

 性格違うよね、本気で、とぼやく綱吉に山本のように明るく笑って返した。




 ガラッ!

 教室の扉が勢い良く開かれた。
 扉が壊れる! と苦情を言おうとそちらを見た担任の教師がビクリッと震える。

「ナギサは?」

 風紀委員長の登場に教室中が固まっている。
 噛み付こうとしている獄寺を止めて、梛沙は前に出る。

「先生、呼ばれたので行ってきます〜」
「お、お待たせするんじゃない…!」

 いやいや、そんな目の前でビクビクされたら咬みつかれますよ?

「ナギサ?」
「おぅ、梛沙様だぜ」

 話するって言ったからな……応接室行くか?

「それとも、別の場所?」
「……ナギサだって言うなら、ちょっと付き合いなよ」

 首の辺りを引っ掴んで窓から飛び出す雲雀。
 一応、綱吉程度には成長したんで、そんな軽々と運ばないでくれ、とブツブツ言いながら、着地する。

「んで、付き合えって、何に?」
「勿論、僕に手間をかけさせたんだから、少し戦いなよ」
「オッケーオッケー」

 あぁ、そういうことか。と納得した梛沙は、肩に乗せたままにしていたレオンをハリセンへと変化させた。

「何、それ……僕とハリセンなんかで戦り合おうと!?」

 怒りを滲ませる雲雀に、梛沙は苦笑を返す。

「いやいや、ここ校庭じゃん? 見られてるからな」

 日本で銃は使っちゃダメだろ、本来は。
 銃刀法違反でしょっぴかれたら、オレの戸籍まだ作ってねぇしヤベェからな。

「ってことで、今日はこれでな」

 流石に原作のように十手で戦うよりはマシかなぁって思ったんだよなぁ、と考えながらハリセンを構えた。
 殴りかかってくるトンファーの軌跡を避け、ハリセンで受け止め、逆にハリセンで攻撃を入れていく。
 ハリセンは本来紙製だよな? と確認したくなる程に、トンファーとの交差に金属的な音を立てている。

「ぁー、雲雀。一時間したらオレ教室に帰るからな?」
「なんで?」
「折角だし、中学生をしたくて転入させてもらったんだから、そこらへんは理解しろ」
「…………君、性格違いすぎない?」
「ん? まぁ、深いことは気にすんなって」

 ちょっと楽しくてテンション上がって、昔のテンションに近くなってるだけだから。

「黒スーツじゃねぇし、学生やんなら多少ははっちゃけて……」
「それ、多少なの…?」

 流石にそれは違うだろう、と雲雀に突っ込まれた。



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