1.
Tack ska du ha
燻らせたパイプの向こうに、人形が見える。
なんとも美しい。
「そこの若い紳士さん」
ある日立ち寄った、とある胡散臭いガラクタ屋。
造りの古さに誘われて足を踏み込んだその店内の、一角にあるそれに、長い間視線を注いでいた。
そのせいか、ボロを着た店主がそれまで読み耽っていた新聞を畳んで、とうとう店のカウンターから話し掛けてきた。
「お前さん、それが気になるのか?」
普段ならばそんなことをされたら、煩わしくて仕方がないというものだ。
だが、この時は何故か口を利く気になって「ああ」とだけ答えてみた。
すると、店主は枯れて皺まみれになった顔をますます気難しく歪ませた。
「売り物じゃない」
「馬鹿を言うな。こちらから願い下げだ。こんなもの」
店を出ればよかった。
店主の言葉に無性に腹が立って、即座にそう跳ね返した俺に、店主は度肝を抜かれたような顔になり、
「金持ちは皆欲しがるんだがな」
とこぼす。
「見目がいいから部屋に、とまあ……同じ事を言う。だがこれは譲れん。愛玩具にされて汚されるのは虫が好かんのだ。そう思って――お前さんもてっきりその口かと思っていた」
「綺麗に作れば綺麗に仕上がる。見目だけ欲しいのなら、こんなものにわざわざむしゃぶりつかなくとも、その辺にうじゃうじゃ居る」
一緒にするな、と一蹴すると、店主は俺の身なりと目を、じろじろと見つめてきた。
なんとも感じの悪い店主である。
俺は視線を振りほどくように、もう一度人形に目をやった。
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