白き監視者 4
「皆、北の方をご覧よ。なんだかざわついていないかい――?」
「あ!!」
シャルレイが、一旦デパートから出て外を指差す。
言い終わる間際に、軌一も叫んでそこを凝視した。
「……菫」
夢月が呼ぶ。
北の空を見つめて。
「シャルレイと軌一は外周りを固めろ」
菫はすぐに動いた。
二人に指示をし、既に北に足を向け、早足になりつつある夢月の背中を追って。
そして、シャルレイと軌一もさっと散り、分かれ分かれになる。
シャルレイが指差した場所は、デパートのある大通りを隔てたところに建つ、ビジネスホテルの上空だった。
そこは、一見するとただの雪混じりの曇天だが、四人には見えたのだ。
墨よりもどす黒く、毒々しい色の人魂が群れ、地上の一部に降り注いでいる光景が。
「なんだあれは」
走りながら、お玉杓子が渦を巻き排水溝に呑まれていくような様子に目を懲らし、菫が通学鞄を探る。
「誰が呼んでいる……あれだけの悪霊を!」
「術の準備は」
「路地に入ったら施せる。袖を捲っておけ」
「……了解」
早口で言葉を交わし、ホテルがある向かいの広い歩道に行くべく、信号瞬く横断歩道を一気に二人は駆け抜ける。
瞬間、カッと北の空が光った。
「!!」
雷にも似た激しさ。
だが、それよりも広く、高く、そして長い間、その光は地上と空を繋いでいる。
「――妖気の、柱!?」
「菫、ここだ!! ここから駆け込め!!」
驚愕して声を上げた菫。夢月も一瞬だけ目を剥いて、荒々しく路地に飛び込んだ……。
――
―――
「あの日おれの仕事があったままだったら、どうなったんだろうね」
徳利を傾け、酒を注ぎながら、夢月はゆるゆるとそう口にした。
椋伍達が事務所に居候を始めて、数日経っていたが、依然として三人は、元の日常に帰ることはできないままでいた。
「……あのまま、野垂れ死んでたかな」
「縁起でもないことを言うな」
眉と口を顔の中心に寄せて、菫が諌める。
二人は真夜中の居間にいた。
菫が酒の肴を作って、キッチンからカウンターに出して、それを夢月が口に放り込んでいる。
光はその、キッチンから漏れるものだけを頼りにしており、居間を含めた一階は、すべて明かりは消され、薄暗い影を落としていた。
「それとも、あのままにしてた方がよかったのかな。“俺達の先輩達”の為に」
「……? どういう意味だ?」
眉を潜める菫に「すぐに分かる」と、夢月はそっと微笑む。
だがその返答は、菫を納得させるものではなかったらしい。
ジロリと夢月を睨み、その視線から逃れるように、当の本人は徳利とおちょこを手に、体ごと明後日の方を向いた。
「おい、教えてくれてもいいだろう」
「それにしても今日は冷えるなー。天気予報は雨だったっけ?」
「夢月」
席を立って話を逸らす夢月。
菫の不機嫌な声を無視し、彼は居間の窓辺へ近寄って、カーテンをシャッと開いた。
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