3.


 ぽつりと浮かんだ答えはとても人様にはお見せできない、と思う。

 別れを嘆く恋人もなければ、完全な他人になれるほどの距離のクラスメイトも友達もいない。
 いつからか始まった家庭内での「手の掛からない子」という目標と、表面上の設定はとてもしつこく、何年も私にまとわりついて離れない。
 叱ることを知らずに、我を通しすぎる先生にはいいかげん慣れすぎてあくびが出るし、「きちんとしている」とこちらが上から目線で判断できる先生なんて、よその学校にしかいなかった。

 びゅう、と風が吹く。
 その冷たさが心地いい。
 初夏には遠くて、春と呼ぶには冷たい外気が急に肌を粟立たせて、私は両腕を組んで体を丸めた。
 体育座りは楽だ。ずっとしていたい。私一人になれている。私は一人だと、みんなに言わずもがな伝えられる。
 でもそれだと孤立しすぎる。
 人目に触れる孤独は、格好の餌だと思えた。


 ああ。放課後が終わる。
 私はまた誰かの私になるんだ。誰かが作ったイメージに自分を滑り込ませるようになったのは、それが上手くなったのはいつからだろう。
 こんなに苦しいのに。こんなに暮らしやすい。

 フェンス越しに見える近くの通りを、車がいくつも連なり始めたのを、私は憂鬱になりながらただただ数えた。


2016/06/12  囲 章文


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