真っ直ぐに傾け


「河田ァあああああああああ!! 病んでますかぁあああああああああ!?」

 翌日。いつもの朝が始まった。
 生徒玄関でばったり顔を突き合わせた澤田は通常運転で、高木はその勢いに気圧され、さらには澤田に押し退けられて「おうっ」と仰け反る。


「澤田、おはよう。今日ちょっと遅いな」

「フルっフゥうううううううう!!」

「あー、そりゃ大変だな。朝からおつかれ」

「一応聞くけどなにごと?」

「カバン忘れてるのに途中で気づいたって」

「理解力高いなカバン振りかざしただけでなんで分かる!? あと澤田お前何しにきてんの!?」

 高木のツッコミに「ええい喧しいズレメンが!!」と言い放つ澤田は楽しそうだ。
 やりとりを眺めながら上がる階段は、まったく苦にならない。
 たとえばそのままたどり着いた教室の空気が、昨日と違って一部ギスギスしていたとしてもそれは同じで、


「ねえ、ちょっと澤田、ツラ貸してくれる?」

「カバンの中身と一緒に忘れてきた。高木おまえ貸せ」

「ブサイクの顔なんかいらねーよ!!」

「なんだこの玉突き事故ッ!!」

「いいからツラ貸せって言って……」

「おいビケイ澤田ァ!! 挨拶もなしにあたしのおにぎりに名前書いてんじゃねーよ!!」

「失敬なよく見ろ!! 日付と時間と一緒におはようと書いてあるだろうが!!」

「そんなコンシェルジュ機能、心底いらなかった!!」


 例の彼女の取り巻きが寄ってきて早々、迎え撃ちながら席につく。
 事の行方を見守っていた他のクラスメイトが、かじかんだみたいにぎこちなかったのが、緩やかに動き出す。
 いつもの女子と澤田が、取り巻きもそっちのけでいつも通りのスキンシップを始める。

 誰かが窓を開けた。
 流れてきた風が最後の昨日を、洗ってくれているみたいだった。



ビケイ男子 了

2015/06/19



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