白き監視者 2


「……で、どうしておれはこうなってるの?」

「菫ええ!! ねーねーあそこいってみようよー!!」

「軌一。走るな」



 翌日。
 夢月はクリスマスで人でごった返している街中にいた。
 ランドセルを背負った軌一が、きらびやかさを増したアーケード街に浮足立ち、近くのデパートに駆け寄ろうとするのを、夕日(せきじつ)中学校のセーラー服に身を包んだ菫が、軽く叱る。
 それを、死んだ魚のような目で眺めて、夢月がぼやいた。


「いいじゃないか」

 その横でシャルレイが、自分のうなじを軽く引っかき言う。
 服装は、二駅離れた学校のブレザーで、時折息苦しそうにネクタイを弄っていた。


「どうせキミの言っていた予定は、なくなってしまったのだろう?」

「……それを嗅ぎ付けたお前も俺は怨んでるんだけど、分かってる?」

「ははっ怨むならばキミの仕事を横取りした、驟雨局長にお願いするよ。ボクにそれを知らせてくれたのだって、彼なのだから。それよりもキミは、せっかくのバースデーなのだし、もっと楽しんだらどうなんだい? ……できないのなら、ははっ例えば表情をもっとボクみたく輝かせてみるとかっ」

「………ほお」


 名案とばかりに、ニヤニヤしながら提案するシャルレイに、すっと夢月の目が細まる。
 そして――


「軌一、菫」

「へ?」

「……」

 夢月に声をかけられた軌一が、早まる足を止め、振り返った瞬間――笑顔をぴしりと固める。
 菫は夢月に対しては大きなリアクションはなく、代わりについっと冷ややかにシャルレイを見遣った。
 なぜならば、


「ねえねえ! ほらアレ、軌一が前に欲しいのがあるって言ってたところじゃない? 今年は菫がプレゼント入れに靴下もいくつか作ってあるし、遠慮なんかしないでサンタさんにお願いごとするんだよ〜なんせサンタさんだしあははははははっ! 今日は真夜中までパーティーだ!!」

 キラキラキラーっと……。
 不気味さをひしひしと感じるほどの微笑みを零れさせ、そう話しかける夢月。
 が。
 目は依然として、死んだまま。
 むしろ腐臭すら滲み出そうである。
 その様に軌一は双眼を見開き絶句して、言うべき言葉を紡げないまま、かっちりフリーズしたっきりになってしまった。

「……む、夢月」


 そして長い沈黙の後、ようやく軌一は渇いた口を開く。

「今日は、おれ疲れちゃったし、早く帰りたいな。サンタクロースも、真っ直ぐ家に帰らないこどもに、プレゼントなんかくれないだろうし。……ね?」

「……ほら見ろ」



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