三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】 | ナノ



三森あげはは淑女になりたい
幕間・欠けた月【藤井琉奈視点】



『陽菜ちゃんは本当に可愛いわねぇ』
『女の子は愛嬌が大事よね。上のお姉ちゃんはちょっと無愛想ね。可愛い顔しているのに勿体無い……』

 私はいつも二個下の妹と比べられていた。
 可愛くて甘えん坊、天真爛漫な妹を親も周りの大人も可愛がっていた。

『陽菜このお人形が良い!』
『これは私のお人形よ! 陽菜にはその人形があるじゃない!』
『こら琉奈! 妹を泣かせるんじゃない!』
『だって私のお人形』
『お前はお姉ちゃんだろう! 人形くらい妹にあげなさい!』

 物を与えられるときだっていつも妹が優先。
 自分の分になった人形も結局は妹のものになると悟ってからは物を欲しがることはやめた。


『勉強ばかりできても仕方がないのに……なんであんたはこうも可愛げがないの』

 可愛げがないというのはどうしようもないので、別の方向で努力したら先生やクラスメイトには褒められた。近所の大人にも認めてもらえるようになった。
 だけど親は違った。
 父はもともと無関心だった。母はといえば、そんな私が気に入らないようだった。


『陽菜、誕生日おめでとう!』
『ほらプレゼントだぞ!』
『ありがとうパパ、ママ!』

 私の誕生日は忘れられていた。
 ケーキも御馳走もプレゼントもなかった。
 お母さんにそのことを言えば、苛立たしげにあしらわれて終わったので翌年から何も言わなくなった。
 もちろん、家族は私の誕生日を祝ってくれなかった。 


『ごめんな、琉奈』
『お姉ちゃん私ね、学くんと付き合うことにしたの!』
『えっ…』

 同じ中学出身の同級生だった彼が陽菜の肩を抱いて申し訳無さそうな顔をしていた。
 ……私と付き合っていたはずだった彼氏は、いつの間にか妹とただならぬ関係になっており、私のもとから離れていった。
 本来ならここで私は怒って2人を責め立ててもおかしくはないはず。…だけど私は何もいえなかった。
 仕方ないよね、妹は可愛いもの。私みたいに暗くて可愛げのない女よりも、妹のほうがいいに決まっているよね…
 自分にそう言い聞かせて失恋の痛みを誤魔化した。


『藤井…お前このままじゃ落ちこぼれるぞ?』
『勉強しか取り柄がないくせに何なんだこの成績は!』
『陽菜みたいにもっと愛想良くしたらどうなの? …本当、あんたなんか産むんじゃなかった!!』

 2人が交際を始めてから私は勉強に集中できなくなり、成績がガタ落ちした。
 学校の先生にも親にも怒られてしまって…私は唯一の長所すら誇れる部分がなくなってしまった。



 私は誰にも選ばれない、誰からも愛されない。
 …誰も、私を見てくれないのだ。

 陽菜はどんなに成績が悪くても笑って済ますのにどうして私には怒るの?
 家事を手伝っても当然の顔をされるし、陽菜はなにもせずにわがままばかり言っても許されるし。
 私には女子校しか認めないって言っていたのに、陽菜には制服が可愛い共学へ進学を許しているし……

 なんで?
 どうして私を愛してくれないの?
 どんなに努力しても皆が注目するのは妹の陽菜。
 私は何のために生まれてきたの?


 もうヤケだった。
 価値のない自分でも、若い身体を欲するおじさんという存在はいる。お金はあって損にならない。
 だから出会い系アプリで知り合ったおじさんに身体を売ろうとした。
 一瞬でも私を必要としてくれる存在が欲しかったから。

 誰でも良かった。
 ただ私の存在を認めて、私を愛して。優しく抱きしめてくれるだけで良かったの。


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