不確かなものを肺にて探す


壁にもたれかかりながら僕は少し緊張して目を伏せた。背中にある壁はひんやりと冷たいはずなのに体の中は嫌に熱い。
もう秋だというのに何故こんなにも熱いのか。この不思議な状況がそうさせるのだろうか。気まずげに僕の前で片膝をつく日向くんを見た。

「…ひ、日向くん。ほんとに、するの」
「…大丈夫だ、舐めるだけだから」
「……」

日向くんの顔は赤い。緊張や羞恥だけでなく、恐らく酒のせいもあるのだろう。
僕も酒の酔いが回ったせいで日向くんのこのおかしな提案を受け入れてしまったのだ。あぁ、そう、全ては酒のせい。
今更になってどうしようどうしようとぐるぐる巡る思考だが時すでに遅し。日向くんは僕のズボンにそっと手をかけずらしたのだから。






それを突然言われたのは宴の席のこと。それぞれが賑わいを見せる中で日向くんが酒を大量に飲んでいた。
何故それ程までに飲んでいるのだろうか。隣にいたため心配になり日向くんの背中を撫で「飲み過ぎないようにね」と注意をすれば。
日向くんの目が細まり僕を捉えた。熱がこもった目に一瞬驚いていると彼はぱしりと僕の手首を握りあるお願いをしてきた。

「あのさ」
「なに?」
「苗木このあと空いてるか?」

このあと?突然どうしたのだろうかと不思議に思ったがこのあと何も用事がないのは事実。ないけど、と伝えれば彼は真面目な顔をして更に続けた。

「なら……その、」
「うん?」
「確かめさせて欲しいことがあるんだ。その協力を……苗木に、手伝って、もらいたい」

しどろもどろに言う日向くんはお酒のせいで目がどこか据わっている。もう既に飲みすぎているのだろうな、呆れながらそのお願いを断る理由もないので二つ返事で了承した。
それで日向くんが助かるというのなら僕はいくらでも力になりたい、そんな思いで。
日向くんは僕の返事に一瞬目を見開いたがすぐに幸せそうな笑みを浮かべた。どこか安堵したかのように力を抜きながら。
その時は願い事がまさかこんな特殊なことだとは思わなかった。僕に出来ることならなんだってするつもりだったが、予想の斜め上をいくお願い事に最初は困ってしまった。


(まさか、性器を舐めさせてくれ…なんて言われる日が来るとは)


ずぼんのジッパーを下げられ段々に中の性器を引っ張り出される感覚に意識がぼうとする。
これだけ聞くのであれば、日向くんがただの変態になる。そうではない。ただ性器を舐めたいというだけの話ではないのだ。


なんでも、日向くん曰く『気になる人』というのがいるらしく、それが同性らしいのだ。つまり男。
普通に女が好きだったはずなのに、一体どうして男なんぞに恋をしたのか。考えに考えたが結局その人のことが好きで好きでたまらないらしい。
とりあえず自分は男が好きなのか、イコールホモなのかということが知りたくて「性器を舐めたい」なんてお願いをしてきたらしい。
もし好きでもない僕のを舐めれれば男全般大丈夫ということになる。
そこを明らかにしたい、真面目な顔で言われた僕は、当然戸惑って拒否したものの何度もお願いされては断りきれなかった。

恐らく酔いもあったのではないだろうか、今考えればそんな気もするがとりあえず徐々に性器があらわになるのはとてもなんだかむず痒い。

「…ひ、日向くん」
「…なんだ」
「その、やっぱり…」

男が男のブツを舐めるだなんて想像しただけでもあぁ微妙な気分。
少し時間がたち酔いも覚めてきたのでそう提案したのだが日向くんはちらりとこちらを見て「大丈夫だ」の一言で終わった。
本当にやるのか。こんな経験今までにしたことがなかったためどきどきと高鳴る心臓はやけに騒がしい。
男の人にまじまじ性器を見られるだなんて、いや女の人にも見せたことがないんだけど。悲しいことに。

「っ、ふわ!」
「!わ、悪い。強く掴みすぎたか」
「や、ううん、大丈夫…」

パンツの中から性器を少し乱暴に引っ張り出され思わず喉がひきつる。驚いたが大した痛みでもないし寧ろ変なむず痒さがあった。
日向くんを安心させるかのように微笑みかければ彼も安堵したかのように笑い、そして行動を起こす。性器にそっと手を這わせたのだ。

「ッ」

びくん。びくん。ゆっくりと柔らかな手つきで性器を撫でられるとなんだかとても可笑しな気分になる。
本当にやるんだな、緊張でかっちこっちになる僕など気にせず日向くんは根元からふにゃふにゃした性器を持ち上げくすぐる。
もどかしいな、はふ、と熱い息を宙に向かって吐き出した。

「…舐めるぞ」

暫く指先を往復させていた日向くんであったが呟くように宣言すると僕の返事を聞く前にはむりと口内へと入れた。
その瞬間暖かな滑りけのある感触がリアルに伝わってきてつい耐え切れず「ひいっ!」という声を出してしまう。
日向くんの口の中はとても熱くて生々しくて、手では味わえないであろう感触。がくがくと足を震わせる。

「ッひ、あ、う、まッ…て!」
「ん、ぐ」
「あう、ッはわ、わッ…」

べろべろと唾液を絡ませるように先端まで舐め上げ、カリの辺りを指先でなぞる。ちゅっと先端の穴にキスを落としたりそれはまるで愛でているよう。
ぞくぞくとした快感が徐々に呼び覚まされじわじわと滲んでくる涙をこらえようとした。
そんなに丁寧にやらなくてもいいのに、そう言おうと思ったがびくびくと訪れる電流に何も言えなくなる。

(やば、い。ぞくぞく、する)

なんだこれは。自身の手で慰める時とはまた違う快感の度が更にひどい。
日向くんの柔らかな舌が、指先が、口内が、僕の性器を瞬く間に成長させていく。

「あう、うッ…ひゃ、はひッ、い」

ゆったりとした快感。だがそれは確かに近付いてくる。じわじわと侵食してくるかのような波にどうすることも出来ず胸の辺りを掻きむしった。
背中を震わす程の快感は自分自身では到底得られぬもの。呼吸も荒くなっていくのを感じ、耐え切れず日向くんの頭をくしゃりと掴んだ。

「ひ、なたく、ッふ、は、ぁあッ」
「……」

日向くんは何も言わずひたすらに愛撫し続ける。口の中にずるりと飲み込んでみたり軽く先端に歯を立ててみたりしてその度に腰が引く。
が、すぐ後ろは壁。快感から逃げられるわけもなく力が抜けそうな体をなんとか保っている状態。
これほどまでに人の口の中というものは気持ちがいいものなのだろうか。初めて知ったそれに為すすべもなく喘ぐしかなかった。

「日向く、っふ、ああうッ…ふあッ、あ、あ、あ、う、日向くう、んッ」
「…ッくそ」

何度も何度も日向くんの名前を呼ぶ。このおかしくなりそうな快感の中、こうすることで意識を飛ばさぬようにしていた。
だが何故か日向くんはそれに対し苛立ったように声を荒げた。急にそんな態度になられても驚きしかないのだが、その前に彼がすっと立ち上がる。
覆いかぶさる影を訝しげに見て「日向くん…?」と首をかしげてみれば。

「ッ苗木」
「んむ?!」

何を思ったか知らないが、唇と唇を重ね合わせてきたのだ。
一体どういうことなのか、目を見開き直ぐ様突き飛ばそうと思ったのだがヌルリとした舌を滑り込まされその感触に出しかけていた手が宙を彷徨う。

「っは、う、ひッ、な、らくッ…」
「…っはぁ」

口の中をかき混ぜるように舌を抜き差しし、歯の裏をそっと舌先でつついたりする日向くんの手が再び勃ち上がったそれを掴む。
既に先走りをいくらか零していたのでそれを手に絡めじゅぶじゅぶと成長した幹の上をスライドさせ強い快感がまた襲ってくる。
呼吸は出来ない、下は快楽地獄。親指で睾丸をもくすぐられ強さに強弱を付けられては流石の僕も耐えられない。

「ッ、ッは、…、!…っひ、ぐ」

唇を重ね合わせ離れる合間に出てくる甲高い声は女のもののようで耳を塞ぎたくなる。
こらえていた涙も限界に近づくに連れて溢れ出し視界をぼやけさせた。日向くんの顔がこんな近くにある。いつもはもっと離れている顔が、目の前に。
ぼんやりとする頭で僕はその顔を見続ければふいに日向くんが目を開く。

「ッ、」
「やうぁッ!」

途端、それを掴んでいた手に力とスピードが増し、卑猥な水音を立て何度も往復する指先。ぞぞぞぞ!と快感がものすごい速さでやってきて思考を支配し何も考えられなくなる。
もはやすがるように日向くんの服を掴み頭を唇から逃れた後頭を何度も振った。大きすぎる快感から逃れるためまるで赤子のように。
それでも後ろにある壁のせいで逃れることが出来なくて全て受け止めるはめになり、僕ははふはふと息を吐く。

「ッも、むり、いッ…あうう、やらぁッひんっは…うッ、う」
「…もう限界か」
「う、ん!も、げんかぁッ、い…で、くる、きちゃ、きッ、ひあ――――ッ……」

ずくんずくんずくずくずくずく!!全身に駆け上がってくる大きな波に身を震わせ喉を逸らし勝手に声が飛び出してきた。
完全に快楽へと飲み込まれた声は自身の耳をも刺激し新たな快感を呼び覚まし、結果として勃ち上がったそれからびゅるるるる!と勢いよく白濁が飛び出してきた。
日向くんは最後まで搾り取るかのようにイっている最中も親指と人差指で輪を作り何度もスライドさせてくる。
びゅる、びゅる、びゅる。何回かにわけ白濁を飛ばし続けイき果てた僕はもはや力が出てこなくて。ずるずると壁伝いに床へと崩れ落ちていった。

「っは、ぁ、はぁっ、あ」
「……」
「っふ、っは…」

イった余韻にぼやける視界の中、目の前で日向くんがこちらをじっと見ていた気がした。
のろのろと同じように視線を合わせれば、彼は目を瞬かせ視線を地面に落とす。そして呟いた。

「…なるほど」

まるで独り言のように呟かれた言葉の意味が分からず眉間にしわを寄せる。だが疲れで聞き返すこともできず、荒い呼吸を繰り返していれば彼は更に呟いた。

「汚いとも思わないし、寧ろ見てるだけで気分が良い……あぁ、これで自分の本当の気持ちが分かった」
「…?」

何の話だろう。訝しげに視線を送る。だが日向くんはそれ以上何も言おうとせずただ黙って僕を抱きしめてきた。
僕の白濁がついた手のひらで僕の服を掴んできたもんだからうわ、と思ったもののそれは自分が吐き出した液体。
ぬめりけのあるそれがじわじわと染み込んでいく感覚はなんとも気持ち悪いなあと思いながら僕も黙って日向くんに体を預けその肩に頭を乗せる。

「つ、かれた…」
「…悪かったな」
「いや、別にいいよ…。それで、その『気になる人』への気持ちはかたまった?」
「……そうだな」
「っそ、か」

それならば良い。そっと目を閉じ気だるさに身を任せ、ふつりと湧き上がったきた眠気に意識が沈みそうになる。
その眠気と格闘してる中日向くんの声で「…お前のことなんだけどな」という声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいなのだろう。
残っていた酔いと眠気、そして気だるさ。すべてが相まって僕を眠りの世界へと誘っていた。ぐう。



prevnext




トップ


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -