好都合




「あ、そうだ」



唐突に、写真に写っている二人の男のことを思い出した。



「ねえ十神くん」
「なんだ」
「聞きたいことがあるんだけど」



アルバムをパラパラとめくり、僕と一緒に肩を並べていることが多い男二人のことを訪ねてみることにした。
確か後半にかけてその写真が多くなっていったはず…とどんどんめくっていくと、十神くんも写真を見ようと顔を近付けてくる。
めくる度に暖房で暖まった風がふわりと舞い上がり、僕の髪だけでなく十神くんの髪も舞い上がらせる程の距離にいることに内心ではひどく驚いていた。
随分近い。写真を見ようとしているのは分かるが、また彼らしかぬ行動。一体どうしたのか。



「聞きたいこと?」



しかし、そんな至近距離でも十神くんは気にすることなく僕の手の中のアルバムを見ている。
まるでこの距離感が当たり前かのような態度で逆にこっちの戸惑いも消え失せてしまいそうな程の清々しい態度に、僕も十神くんからアルバムへと視線を戻し目当ての男二人を探す。



「見つけた」



そうそうこの二人。肩を組んでたり笑顔でピースしてたり、友達、だろうか。ただの他人ということは間違いなくないだろうがこの二人のことは何も覚えてない。
でも十神くんなら知っているんじゃ、この二人と写っている写真もあったのだし。そう思い聞いてみると、十神くんから返事が返ってくるまで数秒程時間がかかった。



「……、そうだな」



なんだ今の間は。顔を上げ見れば、なんだか気難しい顔をしていた。



「十神くん?」
「…いや、なんでもない。この二人のことは覚えてないのか?」
「うん」
「…そうか」



…もしかして聞かれたくないことだったのかな。いつもならこういう質問には的確に答えるか嫌味を言うくらいなのに、どこかぼけっとしている感じさえする。
まぁ十神くん人付き合いそこまで良くないし、仲良くないのかも。脳内で勝手に彼らとの関係を想像し気まずげな顔をしていると、十神くんがぽつりとまた呟く。



「それは、」
「…」
「…」
「…それは?」
「……」
「いたっ」
「ふん」
「え、なに急に、痛いよ」



意味深に何か呟いたと思ったらそれ以上言う気がないらしく、額をぴしゃりと叩いてきた。十神くんも身体は細いとはいえそれなりに力もある。
無防備だった額は防ぐすべもなく彼のせいでじんじんと痛んでいた。痛みに顔を歪め額を手のひらで抑えていると、近くにいた十神くんの顔がどんどんと離れていく。
あれ、まだ話は終わっていないのに。名残惜しげに見上げていると、眼鏡越しで彼と目が合った。ばちり。



「…あぁ、その二人のことだったか」
「うん。何か知ってる?」
「さあな」



口角を上げ含みのある笑みと共にその口から出た言葉は僕が求めているものではなかった。即座に思う。嘘付け。一緒に写っている写真もあるというのに、何がさあなんだ。
どう考えたってとぼけている十神くんに黙ってられないと追求しようとしたが、その前に十神くんはくるりと僕に背を向けた。



「ちょっと、十神くん」



自分は話を終えたみたいな雰囲気を醸し出す十神くんに少し強めの口調で名前を呼んだが、彼は振り返ることはなかった。
その代わり肩をゆらゆらと揺らし、何かを堪えているかのような声を漏らしだしたのだ。
それには流石にぎょっとし、あの十神くんが泣いている?と動揺でついベットから下り十神くんに手を伸ばした。「と、十神く」けれど、彼は決して泣いているわけではなかった。



「報われないものだな」



笑ってる。心底愉快そうに笑っている。「え」と手を止め足を止め、見れば、十神くんはやはり泣いていることなんてなくてその顔には笑みしかなかった。
一体なにしてるんだろう。なんで笑っているんだろう。その言葉の意味は、なんなのだろう。戸惑いで声をかけれずにいると十神くんはまた笑うような声音で言った。



「面白い」



わけが分からないが、とりあえず機嫌が良さそうなので追求するのは諦めてベットに戻る。
まったく、そう言えば十神くんはこういうところがあるんだった。彼の感性というか考え方はどうも愚民である僕達には理解出来ない、とのこと。本人曰く。
生まれも育ちも環境も違うのだから、それは当然と言えば当然なのだろうか、また十神くんはレベルが違う。
なんだって十神財閥の御曹司。今も幾つかの企業を自分で起こし、成功を収めているらしいし、正直住む世界が違うお人なのだ。
はぁとため息をつき、愉悦に浸る十神くんの後ろ姿を見て僕はアルバムにまた視線を落とした。
教えてくれなそう、っていうか自分の世界に入っちゃってるよ、この人。はぁ。またため息。



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