ぼくをみつけるものがたり | ナノ
世界はただ残酷だった#1

「いやっ!」

 硬直して動けない玲名に向けて灰皿とともに振り落とされた腕から玲名を庇えば、僕の頭からぽたりぽたりと赤いものが滴り落ちて、床にしみを作った。玲名ははっとして動き、あわてて「だいじょうぶっ!?」と叫ぶ。

 「大丈夫。大丈夫だから心配しないで、玲名」といえば心配そうな顔で玲名は僕の顔を覗き込み、僕の背後を見て「れいん!」と叫んだ。それと同時に頭に走った激痛。振り返った先の母親を睨めば彼女は「いっそ死んでしまえばよかったのにね、玲音」といった。

「あなたが死ねばよかったんじゃないですか?僕と玲名に貴方という存在は要りません」
「ああもう、どこまでも可愛げのない子」

 可愛げなんて無くても生きていけますよ、とはき捨てればまた殴られた。玲名と同じ、青い髪が揺れる。玲名とは違いツインテールを結っているような高い位置にある白い髪の毛が赤に染まっていた。ああ、折角可愛い妹の玲名とおんなじ髪の毛なのに、と思いながら玲名の頬に触れる。

「大丈夫?玲名は怪我してない?」
「わ、わたしはだいじょうぶだけど、れいんが…!」

 泣きそうに云った玲名に微笑んだけれど、その瞬間親が投げたお酒の缶が玲名の白い頬を無残に引き裂いていった。


 未来と話して世界が回って、はじめてみた景色は僕を優しい笑顔で見る母親の姿だった。青い髪の綺麗な母親は父親と一緒に僕と、僕の隣で寝ている赤ちゃんを愛おしそうに見ていた記憶がある。僕の体も幼子になっていた。僕と赤ちゃんは玲音と玲名と名づけられ、お母さんとお父さんの元へ行った。

 一、二歳は平凡だった様に感じる。玲名がよく泣く子だった分僕は全然泣かなくて、お父さんもお母さんも玲名のほうに構えたのである。僕たちがしゃべるようになってからだと思う、この八神一家が狂い始めたのは。僕はすぐに色々な言葉をしゃべれるようになった。それはもう赤ちゃんではないような、流暢とした話し方だった。そのためにまず僕が親に気味悪がられた。その後玲名も、僕がしゃべるようになったことで(玲名は結構賢い子だったのだと思う)舌足らずではあるけれど話せるようになった。

 僕は前世というハンデがあるからだけれど、ありえないほど賢かった双子を親は気味悪がり、異端とした。そしてそれに重ね合わせるかのようにお父さんがリストラされて仕事がなくなり、またそれと同時にお酒を飲んだりお母さんと僕たち双子に暴力を振るようになった。お父さんは酒におぼれて、お母さんはお父さんに殴られたことでその怒りを僕たちにぶつけるようになった。

 せめて出来る抵抗はしている。でも、玲名が傷つかないように庇う事ぐらいしか、才能も何も無い僕にはできない。この世界での僕は本当の僕ほど気持ち悪い容姿をしていなかったから良かったけれど幼い子供の力では玲名を守りきれないから、今の僕は何よりも、力が欲しい。

 ただ、力がほしいんだ。

 母親とも父親とも決別しておひさま園という施設に入れられたのは、僕たちが3歳のときだった。

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