9周年企画 | ナノ

 幾度生まれ変わろうと




「……君が大好きだよ、世界中で誰よりも」



何度その言葉を言っただろうか。出会うたび度に、別れの度に私は君に告げる。それは何があろうと変わらない。そして、それは無限に変わらなく同じ結末を迎える。そんな私の人生はいつも張り裂けるような思いを募らせるがなんだかんだで幸せだった。



「………夢、か」



思わずそう呟いてしまった。けどそれとは少し違ういつもの事に溜息まで吐いてしまう。気怠い体をベッドから起こして素足を床へと下ろせばヒヤッとした感触が体を走る。いつからだろうか、ある所まで進むとまた『今日』に記憶が戻る。起こった事すべてが夢として終わり消える。私の感情もなかった事になったかのように、全てはこの日へと遡る。



「なまえ、何やってんの。仕事だよ」
「女の子の部屋に入るときはノックしてよね」



何度言わせるのよ、と口内で呟きながら立ち上がる。顔を洗いに洗面所へ行き出てきた頃には私を散々悩ませる彼はもういない。さっさと支度して来いという事なんだろう。もう一度溜息を吐き仕方なしに着替える。こんな思いをするならここから出て行けばいいのにそれが出来ない。



「さっさと行くよ」
「はいはい。シンク師団長殿」



目の前の彼がそう遠くない未来に死んで消えてしまう。それかわかっていて私は助けることが出来ず、毎度後を追って私も消える。それはメビウスの輪のように永遠に変わることなく廻り続ける。そうやって全く同じ日々を過ごしてこの日はやってくるのだ。



「くっ…!」



エルドラントの最深部。そこでいつもルーク一行を待ち受ける。そして、そこでいつも記憶は途切れるのだ。今回もそれはきっと変わらない。自ら命を絶つとわかっていて彼らの攻撃を凌ごうとするのだ。滑稽過ぎて笑えない。そうか死ねばいいんだ。彼より先に死んでしまえば、苦しい思いをして死を選ばなくていい。きっと未来を変えてしまえばもう同じ日々を繰り返さない。そう思ってジェイドの譜術を避けるでも防ぐでもなく目を閉じて受け入れようとする。



「ああ、やっと…」



死ねる。全てはもう止まる、廻り続ける事はない。そう思っていたのになんの衝撃も痛みもない。普段なら感じるはずのない温もり、あまり聞き覚えのない一定のリズムで鳴る音。トクントクン…それが何を意味するのか理解するまで一体何秒かかった事だろう。



「アンタ、バカなの!?」



温もりは消えるとほぼ同時に荒げられた声。何の事だと目をパチクリさせると目の前には私の両肩を掴んで怒ったようなシンクの顔。あれ、私生きてる?それが声に出たのか当たり前だろ!と怒られた。なんで怒られたんだろう。ちゃんと仕事したのに、怒られた。



「自分から死のうとするなんてバカじゃないの?」
「いつも消えたがってたシンクが言えて義理じゃ……あれ?ルークたちは?」




盛大な溜息を吐くシンクに言い返そうとしたけど何かおかしいと辺りを見ると先程まで戦闘をしていたルーク一行は誰一人いなかった。戦闘してたのって夢だっけ?と言いたくなるけど確かに戦闘の形跡は残っていた。



「なまえがボケっとしてる間に先に行かせたよ」
「え、ええーっ!?」



ルーク達じゃシンクの希望は叶えてくれないのになんで。ルーク達と戦わずに先に進めたってバレたらヴァンは許さないだろうに。

「もうどうでもいいよ」
「どうでもいいって!あれだけ…」



あれだけ願ってたのに。なのにどうでもいいって。シンクの考えていることがわからない。



「……夢を見るんだ」



私から顔を背けてポツリと呟くように発せられる声。その表情は苦悶に満ちていて、いつもの仏頂面でも人を小馬鹿にしたものでもない。たぶん、見たことのないシンクの顔。



「やっと何もかもから解放されて消えれると思ったら……なまえが……」



むしろ声の方が消えそうなくらいか細い。そんな彼の逸らされた顔をただ見つめる。彼は何の夢を見て何を語りたいのだろう。それが、知りたい。



「……なまえが、僕の後を追うように……消える、夢……」



そればかりを繰り返し見るとシンクは途切れ途切れに語る。雄弁な彼が時折言葉を途切らせて語ったのは私の夢だと言う。どこか冷え切っていた体が一気に血が駆け巡ったかのように熱くなる。



「……ただの夢だと思ったら……」



攻撃を避けようとしなかった、と。まさか、シンクが私の夢を見ていたなんて。血が廻って熱くなった体はまるで生き返ったかのようで心臓が煩いくらい鳴り出した。



「私は…シンクが死んだら…生きていけないの。そればかり繰り返してたら……後から死ぬのが怖くなった…」



私が何度もシンクの死を繰り返した事。それこそまるで夢みたいなことがあったことを話し、終えると歌が聞こえた。とても綺麗な歌声が。



「もう"全部"終わったんだし…一緒に生きればいいんじゃん」



そう言った彼に抱き寄せられて唇を塞がれた。

→あとがき


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