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「安心していいのやら悪いのやら」



今朝の朝食会には十神くんも腐川さんも来なかった。無理強いしてもあの二人は来ないだろう。私としては半ストーカーされているから少しばかり安心したけど。



「お、城戸っち。何してるんだべ?」
「とりあえず…今はコーヒー飲んでるかな」



入れ立てのコーヒーを飲んでいる所にやってきたのは葉隠くんと山田くん。ある意味すごい組み合わせだな。



「コーヒーですか?城戸聡莉殿はコーヒーがお好きなのですか?」
「まあ、好きだね。徹夜するために飲み出してから好んで飲むようになったかな」



戦場によっては翌朝に作戦決行だから夜が明ける前までに策を練らねばならぬ事もあった。その為、寝るわけにもいかないからブラックコーヒーを飲みだしたらハマった。



「あら?あなたもコーヒーが好きなの?」
「わたくしはロイヤルミルクティーの方が好みですけど」



いつの間に食堂へと入ってきたのか、今度は霧切さんとセレスさん。二人とも興味深そうな表情で近付いてくる。



「いい香りね。私も飲んでいいかしら」
「いいけど…味の保証はしないよ」



もう一杯分はある。それをカップに注いで霧切さんへと差し出す。前もって忠告はしておいたけど、霧切さんは構わず飲んだ。そして固まった。



「……か、変わった味ね」
「だから言ったじゃん。味の保証はしないよって」



一口飲んでカップをテーブルに置く。入れ替わるかのように私は自分のカップに口を付ける。



「モノクマブレンドだから味はちょっとね」
「モ、モノクマブレンドぉ!?」
「なんでそんなもんがあるべ!?」



このコーヒーはモノクマブレンドだよと言えば、四人は顔色を一気に悪くした。わからないでもないけどそこまで変わるものなんだね。



「この前の裁判の時のお願いでこのブレンドの割合を聞いてね、作ってみたんだ」
「おおおお願い事をそんなことにぃぃ!?」
「普通の発想ではありませんわね」



私を殴ったお詫びのお願い事を美味しくもないコーヒーにお願い事を使ったと言ったら四人が四人驚きを露わにした。



「何か癖になってね。まあ……私の本心の願い事を言っても何一つ聞いてもらえないよ」
「そうでしょうね」



黒幕が誰かと聞いても教えてはくれないだろう。外の事ももちろん。ろくでもない事くらいしか答えてはくれない。なら適当に聞いてしまった方が後々催促されなくていい。



「霧切さんにはお詫びにちゃんとしたのを入れてあげるよ」



もちろん、三人もコーヒーでいいならね。と言って立ち上がる。紅茶好きのセレスさんも飲むと言ってくれたので入れた。



「すごく美味しいわ」
「これでしたらわたくしも好みですわ」
「コーヒーってこんな美味かったべか!?」
「これはプロのバリスタ並に美味しいですぞ!」



私が入れたものをこれだけ賞賛してもらえるとは。きちんとしたやり方と言うほどの入れ方はしてないんだけどね。



「気に入ってもらえたら嬉しいよ」



人に喜んでもらえると嬉しいものなんだね。戦場が長いせいか、監禁生活とはいえ平和な会話はなんだかくすぐったい。親友を亡くしたばかりだけど、悲しみを薄くしてくれる嬉しさだ。何とも言えない一時をここで過ごした。



「……喉が渇いたな」



しばらく彼ら四人と過ごした後は、部屋に戻って一人で過ごした。図書室が気になっているのだけど、十神くんがいると思うと気が引けた。普段ならあまり気にしないんだけど、彼の場合は普通とかなり懸け離れていて。



「本当に不二咲くんの謙虚さと可愛らしさを見習ってほしいな」



もう少し柔和な態度でいてくれれば文句はないんだけどな。敵意剥き出しなのはいいけど、今の状況から言って彼の態度は私にすれば邪魔でしかない。



「誰かいるのかな」



食堂へと入ると誰かいるのか話し声が聞こえる。そこにいたのは苗木くんと石丸くんと大和田くん。何をしているのだろうか。



「何してるの?」
「あ、聡莉さん」



私が話しかけると苗木くんが助かったと言わんばかりの笑顔でこちらを見る。何か不穏な雰囲気を感じるんだけど。



「実は立会人を頼まれちゃって…」
「こいつが、ナメた事を抜かすから勝負をすることになったんだ」
「僕と大和田くん…どちらが根性があるのか証明するための勝負だ!」



ふむ。超が付くほどの真面目な石丸くんと素行不良の大和田くん。そりが合わないのは仕方がない。



「で、何の勝負をするの?」
「サウナでどちらが長くガマン出来るか競おうとしていたところだ!」



サウナって、また。それの立会人を苗木くんに頼んだって事は、苗木くんはたまたま食堂に来て捕まったって事か。ご愁傷様。



「どうせ数分で音を上げるに決まっている!君みたいな連中は口ばかりと相場が決まっているのだ!」



ここで石丸くんからの挑発。その瞬間、大和田くんの額に血管が浮かぶ。犬猿の仲とはこう言う事を言うのかな。



「じょーとーだぁ…!だったら、ハンデやんよ!オレが楽勝過ぎてもつまんねーからなぁ!」



ハンデって。サウナでハンデって何だろう。



「"服を着たまま"勝負してやんよッ!!」
「バ、バカなッ…!自殺行為だッ!!」



服を着たままサウナなんかに入ったら汗を余計に掻くんじゃ。やった事はないからわからないけど、危険な気がする。



「あんだぁ?ビビってんのかぁ?」
「こ…後悔するぞ…!」



声を張り上げながら二人は去っていった。ああなったら誰にも止められないな。



「苗木くん」



半ば諦めモードの苗木くんを呼び止める。今にも泣きそうな苗木くんは、気力なく振り返る。



「これ。危ないと思ったら無理矢理にでも飲ませて。あんな勝負で死ぬなんて馬鹿らしいでしょ?」



二本の水の入ったペットボトルを差し出す。勝負に夢中になりすぎて、水分を取らずにいて脱水症状で死亡なんて洒落にならない。



「キミも適度なところで戻るんだよ。あと、二人のどちらかがヤバいと思ったら助けを求めること」
「うん、わかった。ありがとう、聡莉さん」



苗木くんは水を持って二人を追いかけていった。苗木くんもいい人すぎるよ、ホント。私も飲み物を持って部屋に戻ろうかな。ここで随分時間を使ってしまったようだし。


「なんだか平和な一日だったな…」



ここに来て初めてそう思った一日だった。



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