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「どうしようかなぁ。図書室に行こうか迷うなぁ」



朝から十神くん行方不明事件のおかげで朝食会はなくなった。それはいいとして、ランドリーで洗濯し終え、これからどうするか悩む。図書室にはまた十神くんが戻っていそうで、また答えを求められそうで嫌だ。私だって自分自身を含めて不可解なことが多すぎて苛立つこともある。けど苛立ったところで解決はしないから状況を見極めてるというのに。



「一度部屋に戻ってから……きゃっ!?」
「わっ!?」



ランドリーを出て、部屋へと向かおうと角を曲がった時、誰かとぶつかった。洗濯物の重さもあってかバランスを崩し前へと倒れる。



「不二咲さん……んっ?」



私は半ば不二咲さんを押し倒すように倒れていた。右手は彼女の胸の上。しかし胸の上だというのに女性特有の柔らかさはない。むしろ硬い。いくら胸が小さいにしてもこれは、もしかして。



「不二咲さん……下も触っていい?」
「だ、だめだよぉぉ!!」



私の少々下品な発言に彼女は眼下で顔を赤らめて叫ぶ。恥じらう不二咲さんに女の私でも思わず襲いたくなるような可愛らしさ。



「……えっと……よければ私の部屋で、話をしていかない?」



彼女の顔を見下ろしたまま言うと、不二咲さんは何故か観念したかのように目を閉じて、はいと答えた。



「これは、単刀直入に聞いていいのかな?」



不二咲さんをベッドへと座らせて私は腕を組んで壁へと寄りかかる。不二咲さんは泣きそうな顔で小さく頷いた。



「……不二咲さんは女の子じゃなくて……男の子、でいいんだよね?」



これにもコクンと頷く。そうか、男の子だったのか。確か、盾子から『男の娘』っていうのが流行ってるとか何とか聞いたことがあったような。これだけ可愛く変身すれば誰も気付かないだろう。



「わた……僕、弱い自分を隠すために、こんな格好してるんだ…」



消えそうな声で話し出す不二咲さん……もとい不二咲くん。小柄で、気の弱い彼ではもしかしたらイジメとかにあっていたのかもしれない。



「こんな自分、嫌なんだけど……わかってるんだけど、怖くて…」



ただでさえ、今は学園内に閉じこめられ殺人を強要されているようなもの。彼でなくても恐怖を感じている者はいるだろう。



「そっか……うん、大丈夫。私は誰にも言わないよ」



目に涙を浮かべて私を見る不二咲くん。うん、本当に可愛すぎて、少しばかり間違いを起こしそうだよ。



「人には秘密の一つや二つはあって当然。私にだってある。今回は私の不注意で知ってしまったからね」
「ううん!僕も前をちゃんと見てなかったから…」



人から見たら何だそれとか言いそうな悩みでも、彼にとったらかなり大きな悩みだろう。



「そうだね。お詫びに私の秘密を一つ教えてあげるよ」
「えっ!?で、でもぉ……」



聞いていいものなのかと視線を泳がせる不二咲くん。彼はいい子だね。普通なら弱みになるから聞きたがるだろうに。



「キミだから話してもいいと思ってるよ」



彼の前へとしゃがみ込み、私より少し小さな手を包み込むように握る。



「この話は他の人に話しちゃいけないわけじゃないよ。判断はキミに任せる」



無理に黙っている必要はないと言うと余計に混乱したのか、えっ?えっ?と目を丸くする。



「私はね…こんな才能持ちだからいくつもの戦場をくぐり抜けてきた。だから……身を守るための正当防衛という名の殺人を犯したことがある」



監視カメラで拾えるか拾えないかくらいの小さな声で告白する。その内容に相当驚いたのか、不二咲くんの目はこれでもかってくらい見開いた。



「この手は血で汚れている。気持ち悪いって振り払っていいよ」
「しないよ!そんな事しないよ!」



ぶんぶんと首を横に振る不二咲くん。彼にしては大きな声でそれを拒否する。



「だって、そうしなかったら城戸さんが死んでたかもしれないんでしょ?」
「それでも殺人は殺人だよ」



そう言っても不二咲くんは首を横に振るだけだった。本当になんていい子なんだろう。十神くんは彼の爪の垢を煎じて飲むべきだ。



「君は優しいね。その優しさは大事にしてね。ここではその優しさは貴重だから」



私には持てない。そこまで優しくはなれない。



「…僕ね、強くなりたい」



私の手の中で自身の手をギュッと握る。そして私をじっと強い目で見つめる。



「僕、強くなりたいんだ!だから、やっぱり体を鍛えようと思う…そこから少しずつ強くなれたらなって」
「いいと思うよ。私も手伝うよ」



これでも軍で訓練を受けたこともあるしね。と力こぶを作るような素振りをすると、不二咲くんはキョトンとした後、クスクスと笑い出した。



「トレーニングとかするときは言ってね。遠慮はいらないよ。私たちは仲間だ」
「うん!ありがとう、城戸さん!」



秘密を共有できたことと、悩みを打ち明けたこと、目標を作ったことで少し気持ちが強くなったのか、彼は笑顔で私の部屋から出て行った。



「で、キミはそこで何をしているの?」



不二咲くんを見送って、部屋の中に入る前にすぐ角へと視線だけを向ける。角から、チッと舌打ちをしながら現れたのは十神くん。図書室じゃなくてこっちに来たか。



「言っておくけど会話の内容は言わないよ。プライバシーに関わるから」



十神くんが不二咲くんを気にしてるとは思わないけど、私と何を話していたかは気になってるだろう。そこまで私は怪しいのかな?



「不二咲を誑かして何をしているかと思えば」
「かなり語弊がある言い方だね」



うーん、彼の中の私ってどういう印象なんだろう。誑かすって……まあ不二咲くんと私とじゃそう見えるかもだけど。



「十神くんって……私のストーカー?」



わざとらしく顔を歪めて言えば、十神くんは目を見開いて驚く。すぐに顔を真っ赤にして私を睨みつける。



「ふざけるなっ!貴様が怪しい態度を取るから監視しているだけだ」
「ってことはランドリーで洗濯してたときも覗いてたのかい?」



うわっ、変態。と小声で言ったら胸ぐらを捕まれた。



「いい加減にしろ」
「十神の次期当主ともあろう者が、分が悪くなったら暴力に訴えるのかい?」



拳は振り上げていない。でも強く握りしめている。いつ殴られてもおかしくはない。



「十神くんが私の何を見て怪しいと言っているのかわからないけど、私がその気ならそんな素振り誰であろうと一切見せないよ」



いくら別名、超高校級の完璧と呼ばれる十神くんだろうと誰であろうと私はそんなヘマはしない。もう少し状況が良ければ、誰にも察しられずに事を終わらせられる自信はある。



「もういいかな?」
「……少しでも怪しい素振りを見せて見ろ。モノクマが罰する前に俺が罰してやる」



やや乱暴に手を離すと、十神くんは去っていった。かなり厄介な相手に目を付けられたものだ。何とも言えない溜息を吐いて、私は部屋へと戻った。



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