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初めまして、アイドル

「悪いなぁ。本当は普通科に行く予定だったのに」
「…いえ、大丈夫です。こちらこそ、わざわざ呼びにきてもらってすみません」

そういって笑った佐賀美先生に私も笑って返した。が、内心不安で仕方がない。今度新しく実装されるプロデュース科、というものがあるらしいのだが、なんの手違いか私はそちらに行くことになってしまった。
しかも、そのプロデュース科自体はまだ存在しないようで、今はアイドル科と一緒に過ごさなくてはいけないらしい。

(……最悪だよなあ。よりによって、アイドル科なんて)

まあ、最後に決めたのは、自分なんだけど。
教室に来るまでの間、どれだけ周りを見渡しても男子しかいない。おまけに顔立ちのいい人たちばかりだ。話には聞いていたが、こうして何も考えずに現場に放り出されるとかなり不安だ。

「………ここか」

佐賀美先生に言われた教室の前で立ち止まる。上を見上げるとそこには「2ーB」と書かれていた。間違いない。私のクラスはここだ。
ああ、只でさえ新しい所で緊張してるっていうのに、その上男の人しかいないなんて。親切な人がいれば助かるんだけど…。ついでにこの学校のシステムとか、校内の案内とかしてくれれば有り難い──

「おーい、入らないのか?」

背後から声をかけられ、私は思わず飛び退いてしまった。それと同時にドアに頭をぶつけてしまい、激痛と共にうずくまる。それを見ていた相手の人もすごく驚いていて、心配そうに声を震わせていた。

「な、なんかごめんな。驚かせて」
「い、いえ。こっちが勝手にぶつかっただけだから……」
「大丈夫か?お前、噂の転校生だろ?」

教室の扉を開けて、手招きしながら教室の中へと入っていった。それについて行くと想像通り、クラスには男の人しかいない。視線という視線が集中してきて、胃がきりきりしてきた。
先生の話では、あとからもう1人私と同じく女の子が転校する予定、らしい。同じクラスの確率は低そうだし、A組になるかもしれないな。
キョロキョロと辺りを忙しなく見渡す私に、彼は笑みを浮かべながら自分の座る隣の席を指差した。

「ここ、お前の席な。俺は衣更真緒。一応先生にお前の面倒見るように言われてんだ。お隣さんってことでよろしく!」
「ええっと…私は連星百瀬です。よろしくお願いします…」
「そうかしこまんなよ、同い年なんだからさ」

衣更君の言葉に私はこくこくと頷いた。改めて「よろしく」と伝えると、彼は嬉しそうに笑う。それにつられて私もヘラリと笑った。
聞けば衣更君は生徒会にも入っているみたい。しっかりした人なんだろう。そう考えると彼が隣の席というのはすごく安心出来た。

「とりあえず昼空いてるか?校舎の中案内するよ。今日だってここまでくるのに迷っただろ?」
「う、うん。出来ればお願いしたいな。ここの校舎広くて……」

実を言うと先生に説明されても分からなくて、何度も同じ道を行ったり来たりしながらここに運良くたどり着いたのだ。逆にお昼付き合わせて大丈夫かな、と心配になったが、むしろ道も分からないままの私を放っておく方が心配だと返された。
始まった授業も私が今まで受けていたものと違って、特殊で目が回る。しかし物分かりの悪い私に対し、衣更君は事細かに分かりやすく教えてくれた。

「ご、ごめん。色々お世話になっちゃって…」
「いいって、こういうのは慣れてるし」

困った風に笑みを浮かべた衣更君に、これ以上変に迷惑かけないように頑張らなくてはと心の中で意気込む。そんな私の気持ちを察したのか、彼は「気にすんなよ」と声をかけてくれた。

「お前は転校生でプロデューサーで、分かんない事があって当たり前なんだ。遠慮せず頼れよ。頼られるのって、結構嬉しいんだから」
「……衣更君、相当苦労性だね」
「それに関しては俺自身よく分かってるよ…」
「うん、でも…ありがとう」

衣更君の言葉が嬉しくて、安心して自然と笑みがこみ上げる。それを見た彼は「やっと笑ったな」と呟いた。衣更くんの優しさが身に染みて、その一言に、私は笑みを深めた。

「それにしても、よくプロデュース科なんてのに入ったな?本当は普通科に入る予定だったんだろ?」

普通科に入る予定というか、そのつもりで私は夢ノ咲に来たのだ。いつの間にかプロデュース科のテストケースに選ばれていたなんて、そんなこと衣更くんに言っても仕方ない。
結局、この道を選んだのは、望んだのは私だ。
私は特に余計なことは言わずに衣更くんの話に相づちを打った。

「なんというか、タイミングがいいのか悪いのか…」
「…え?」
「ああいや!何でもない。こっちの話だよ。」
「…そう」

同情のような、憐れみのような。その奥で、求めるような。
色んな感情が入り混じった、そんな衣更くんの目に私は気付かなかったことにした。



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