独り相撲 「オナニーみせてよ」 二人きりの部屋にがらんどうの声が響く。その突拍子もない言葉に動揺し、「んあっ」と、間抜けな声を漏らした赤也の肩を、ポーカーフェイスを気取った彼女が撫でる。そうして赤也の心を掴んで離さない大きな瞳をきょろりと揺らし、唇を尖らせるのだ。 「一人でシてみせて」 「なに言ってるんすか……」 「オナ、」 「ストップ」 彼女の唇の前に手のひらを差し出す。ほんのりと苛立った様子の彼女の視線が部屋の隅に移動する。ケチ、小声で呟いた彼女が、豊満な胸を強調するように二の腕を動かした。 年上の恋人は時折よく分からないことを言う。赤也は彼女の大きな瞳をじっと見つめながら、その不可思議な言葉の真意をはかろうとする。しかしその試みがうまく行ったことはない。彼女の言葉には裏がないのだ。一度口に出したことを実行しないということは滅多にない。真冬の屋外を歩いていても、アイスが食べたいと言ったら、肩を震わせながらでも食べるし、デートで映画を見ている最中でも、つまらないと呟けば、次の瞬間には眠りに落ちている。良くも悪くもマイペースで、正直な女なのだ。そんな女であるので、今回赤也に向けて発した言葉も概ね本気に違いない。 「……今回ばかりは冗談であってほしいんですけど」 「私、冗談って好きじゃないな。面白いこと言うセンスがないから」 「たしかに、今のが冗談だったら全く笑えねぇ」 「冗談じゃないからいいでしょ」 「よくねぇよ、なんでそんなもん見たいんすか。アンタ、かなりヤバイよ」 「赤也のことが好きだから、赤也が私の前でオナニーして恥ずかしがってる情けない姿が見たいの」 駄目なの、と小首を傾げられると、駄目っスよとは言えなくなる。そんな自分が情けなくて、赤也は唇を噛んだ。それから数秒の間流れた沈黙を肯定と受け取ったらしい彼女は、赤也にズボンをおろすよう命じた。仕方なくベルトのバックルに指をかけると、彼女の形の良い唇の端が釣り上がる。 「そんなに見たいんスか」 「見たいよ、ずっと見たかった。始めてエッチしたころから、ずっと」 「変態じゃないスか」 「だって、赤也可愛いんだもん。私小さい頃犬とか猫とか飼いたかったの」 「人を犬猫と一緒にしないでくださいよ」 恨みがましい声をあげると、似たようなものでしょと笑われる。プライドはズタボロで、しかし不思議と悪い気はしない。 赤也がベルトを取り払い、ズボンをおろすのを確認すると、彼女は緩慢な動作で身に纏っていたワンピースを脱ぎ始めた。下着姿の彼女の白い腹に欲情を煽られた赤也は、この奇妙なやりとりによって勃ち上がりかけている自分のモノを下着から解放した。 「オカズもなしにイくなんて無茶っスよ」 「もう勃ってるのに?」 意地悪く呟いた彼女の手が、赤也のそれに伸びる。しかしその細い指が赤黒い先端に触れるか触れないかのところでその動きは止まり、二人の視線がかち合う。彼女の黒々とした瞳に、赤也の欲にまみれた白い顔が写り込んでいた。シゴいてくださいよ、そう言いかけた赤也の唇に、柔らかな感触が重なる。それは彼女の唇だった。ベッドに腰掛けた赤也の膝の上に跨った彼女は、赤也の舌の感触をゆっくりと味わうと、唾液で濡らした唇を震わせた。 「シゴくのは赤也でしょ」 耳元で囁かれて、理性の糸が切れかける。調子に乗り切った彼女を、ベッドに押し倒して、いきり勃ったそれをねじ込みたかった。しかし、そんなことをして彼女の機嫌を損ねれば、しばらくの間お預けをくらうはめになるのは間違いない。 「アンタってマジで最低」 恨みがましく呟いて、彼女の濡れた唇を奪う。噛み付くようなキスを続けていると、彼女の鼻から熱を帯びた空気の振動が漏れ出た。それだけのことにたまらなく興奮して、赤也は自分のモノに左手を絡ませた。左手の動きが激しくなるにつれて、唇の重ね方はおざなりになっていき、舌を絡ませ合うそれが触れるだけのものに変わったとき、彼女が冷たい目をして自分のモノを見つめていることに気がついた。耐えきれない程の羞恥心を覚えた赤也が指の動きを止めると、彼女の右手が赤也の左手首に重なり、無理矢理に動かされた。時折、赤也の手の平からはみ出た赤黒い先端に、彼女の細い指が擦れる。 「……それ、ヤバイ。頭ん中ぐしゃぐしゃになりそう」 「なったらいいじゃん、赤也って微妙にマゾっ気あるよね」 「胸、触らして」 「触らせてくださいでしょ」 鼻で笑われる。どうして、自分はこんな女を好きでいるのだろう。時たま分からなくなる。分からないのに、好きだ。好きで好きでたまらない。熱い吐息と共に、「胸、触らせてください」と、呟くと、満足げな表情を浮かべた彼女が、赤也の左手に重ねていた右手でブラのホックを外した。剥き出しになった白い球体に指を重ねる。それを揉みしだきながら中心の色の濃い部分に舌を絡ませると、彼女の大きな瞳のふちに涙が滲んだ。彼女もまた欲情しているのだと思うとたまらなく興奮して、左手の動きが激しくなる。 「っ……もう、イきそ」 熱に浮かされた頭で呟いた瞬間、血管の浮き出た裏筋を掴まれた。驚きから、腹筋をひくつかせると、耳元で笑われた。 「まだ駄目……私は全然満足してない」 そう言った彼女は、腰を浮かせて赤也の先端に自分の熱いそこを擦り付ける。指の一本すらも触れていないはずのそこは、下着越しでも分かる程に濡れていた。 「赤也の恥ずかしいとこ見て、めちゃくちゃ興奮してる」 自らの秘部の窪みと赤也のそれを緩慢に擦り付けながら、彼女は欲にまみれた声を上げる。たまらなくなった赤也が、下着を剥ぎ取ろうとすると、それを器用にかわしてベッドに横たわった。 「ここまでやらせて入れさせないなんて冗談っスよね」 「入れていいよ」 へらりと笑って呟いた彼女は、ベッドの上で横たわった状態で、下腹部のところに手をやった。そのまま両の手を使って小さな輪を作ると、「ここに入れなよ」と、呟く。 「私の手、オナホにしてもいいよ」 どうあっても挿入を許す気はないらしい。熱いモノを持て余した赤也がのろのろとのしかかると、この上なく幸せげな表情を浮かべる。 「ねえ、早く入れて」 「……変態」 半分泣きそうにながら赤也がその輪に自身を挿入すると、彼女の温かな両の手が少々きつめにそれを包み込んだ。キスをしながら腰を動かすたび、先走りによってぐちゅぐちゅといやらしい音が響く。 「 先輩の手、きもち……」 「それじゃあこれからは毎回これでいいね」 熱を孕んだ声に対し、それは駄目だと返しながらも腰の動きを止めることは出来ない。湿り気を帯びた吐息を漏らしながら律動を続けていると、彼女の瞳に涙が浮かんでいるのに気がついた。 「っ、ハァ……なんで泣いてんだよ」 「赤也の中に欲しくて……」 「俺もアンタの中に入れたい」 堪えきれなくなって、彼女の手からモノを引き抜こうとすると、それが出来ないように強く掴まれてしまった。先端から溢れ出す蜜を手のひらに塗りたくり、彼の裏筋を激しく愛撫する彼女は、「一回出したら入れていいからぁ……」と、呟く。 「俺の欲しいんスか」 「欲しい……欲しいです、赤也ので私のぐちゅぐちゅにしてほしいよぅ」 普段とは異なる、彼女の甘い懇願にやられそうになりながらも、下着越しに彼女の熱をなぞる。 「うわ、ぐちゅぐちゅ……さっきよりも濡れてるじゃないスか。自分で勝手に自分のこと焦らして興奮してんのかよ」 「……そう、だから早くイって。お願いします」 「なあ、もう入れてもいいだろ」 「今入れたらすぐイっちゃうでしょ……だめ」 「そんな……二発目したらいいじゃないスか」 駄目、だめ、と繰り返しながら彼女は激しく赤也のモノを擦る。繰り返し襲いかかる射精の波をやり過ごしながら、「チューして……」と、彼女に求められるがままに深いキスを重ねる。 「イって、イって……ねえ、早く」 うわ言の様に呟く彼女に、先端を集中的に撫で付けられて、涙が出そうになった。下着の下で赤く充血し、しとどに濡れている彼女の秘部を想像すると、それだけでイってしまいそうになる。早く彼女のそれに自分のモノを突き立てたい、それだけを望んで腰を動かす。途中、快感によって腕から力が抜け、彼女に全身を委ねる形になったが、そのまま彼女の腹に擦り付けるようにして、腰を揺すっていると頭の奥が痺れてきた。 「ハァ……ハ、ッ」 荒い呼吸を漏らしながら、苦しげな表情を浮かべる彼女に激しいキスを落としていると、強烈な射精感が赤也を襲い、腹筋がひくついた。 「赤也のチンコ、熱いの出しながらビクビクしてる……」 放心気味の彼女がそんなことを呟くのを聞いた赤也は、射精後の疲労感から彼女の体にぐったりと体重をかけた。 自分の腹にかけられた精液をティッシュで拭ったのち、赤也の腹、それからナニを濡らす精液を舐めとった彼女が、再び勃ち上がりかけたそれを利き手で弄ぶ。 「どうして一発目は中に入れさせてくれなかったんスか」 行為の最中から感じていた素朴な疑問を漏らすと、彼女は、「ああ……」と、呟きへらりと笑った。 「だってコンドーム、一枚しかなかったんだもん。一発目で使ったらあっという間に終わっちゃうじゃん」 「そんな理由なんすか」 「ついでにオナニーも見たかったし、調度よかったね」 なにがおかしいのだろうか、ケタケタと笑い始めた彼女は、赤也のモノを指先で弾いている。途端に性的な匂いを感じさせなくなった彼女に、赤也はげんなりする。しかしそれでも赤也のそれは萎えなくて、徐々に完勃ちに移行しつつある自分のそれを見つめる赤也は男という性のどうしようもなさを知った。 [back book next] ×
|