悪いおかず(R18)

 一人暮らしの部屋に見合った大きさのテレビの液晶には動画サイトから飛ばされた映像がうつっとる。ナマエちゃんのお勧めのお笑い芸人の動画コントや。生まれて初めて見た鏡に映り込む自分を、不法侵入者やと勘違いして喧嘩をしかける角刈りの男の表情や動きはどこまでも真剣で、おもろいのに鬼気迫るものがある。単純なテーマやのにぼちぼち展開もあって、八分近い動画を笑いを交えながらも殆ど黙ったまま見た。ナマエちゃんとは趣味が合う。
「めっちゃおもろかったわ」
 笑いながら振り返ったとき、ナマエちゃんは眠りにおちとった。寝巻きを着てホカホカになった体が、薄いマットレスの上にたらんと横たわっとる。春が近い言うても夜は冷えるのに、薄手のブランケットすらかけてへん。入眠は唐突なものやったらしい。チューハイの缶を半分もあけたら、ナマエちゃんはいつもこうなる。
 布団を掛けてやってから、頬をつつく。薄く揺らいだ瞼は、繋がっとるときの表情を想像させていやらしい。触れるだけのキスを落としたら、体の中心がスウェットの布地を押し上げた。
 悪い心が顔を出して、薄く隙間の開いた唇に人差し指を添わせて、舌先に触れる。傷つけるのは嫌やからあくまで優しく。ナマエちゃんは一瞬身動ぎをしたけど、寝返りをするでもなく規則的な寝息をこぼし続けとった。空いた手は、スウェットの内側に伸びた。
 これ以上はまずいやろ。
 心の声を無視して、ボクサー越しに先端に触れる。ナマエちゃんの唇、ナマエちゃんの舌、どこまでいっても無害げな寝顔を見下ろすと、体の内側のろくでもない欲求が刺激された。そのまま覆いかぶさって、寝ぼけ眼の体に押し入りたいのを堪えて、そのときには完全な形になったアレを扱き続ける。布ごしなんがかえってよかった。焦らされ過ぎた熱は敏感に過ぎる。
 唇を弄っとった指を離して、手の甲をなぞる。女の人っぽくないんですよ、とナマエちゃんがこぼしとったそこが俺は好きやった。指の先に唇を押し当てながら、先走りの滲む先端を指でくびる。
「っ、う」
 押し殺そうとしても漏れる声。間近でこんなことをされても起きへんナマエちゃんに呆れる。自分のおらん飲み会で眠りこける姿を想像したら吐き気がした。普段はこうやないのに、一人でするときだけは、妙に気持ちが塞ぐ。そういう鬱屈をこめて、赤ん坊みたいに投げ出された指先に歯を立てた。ひくん、と震える好きな子の身体。
 アレを握る手にはいつの間にか力が入り過ぎとって、膨れきった先端はぴったり張り付いたボクサーを汚しとった。そろそろまずい。
「うっ、っ」
 スウェットをずらすと、外気にふれたそれはぶるりと震えた。枕元にあったティッシュを手に取って先端を包む。
「っ、はっ」
 射精感に任せて、腰の奥底から駆け上がってくるものを吐き出す。生ぬるい液体がティッシュの中に広がっていく感覚に、どうしようもないほど情けない気分になりながらも、顔を上げた。
「……謙也さん、何してるんですか」
 眠たげに開かれた瞳、一重の瞼に縁取られたそれはまだ事の些細を捉えてへんみたいやった。柔らかい吐息に、荒くなった呼気が重なる。丸めたティッシュをゴミ箱に放ってから、小柄な身体に覆いかぶさった。



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