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夏夜の花
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7月。

梅雨も明けて澄み渡る青空がまぶしい。
蝉の鳴き声が響く夏の到来に少しワクワクしながら滲む汗をハンカチでおさえた。
お父さんに会うために官邸を訪れた私は、スケジュールを確認するためにすっかり通い慣れたSPルームに立ち寄った。






「花火大会、ですか?」
「そう!今度の週末にさ、近くの海岸であるんだって。夏子ちゃんも一緒に行こっ!」
「あ……、今週末の……」
「一緒に行くのが非番の俺と海司と憲太だけなんだよ?全然盛り上がらないし」
「そらさん、何気に失礼ッスね」
「だって海司、花火大会に男3人って……まじ辛い……」
「俺だって嫌ですよ……むさ苦しい……」
「一番むさ苦しいお前が言うか?」


そんなそらさんと海司のやりとりを前に言い出すタイミングがなくなってしまって……


「あ、あのっ……そらさん、海司………あのね……」
「あ、そうだ夏子ちゃん!浴衣!浴衣着てきてよ!!夏子ちゃんの浴衣姿みたいなぁー」
「てか、お前着れんのかよ浴衣」
「何言ってんだよ、演劇部でも和服姿になってた時あったよねー?夏子ちゃんなら絶対似合うと思うんだ!」
「あいにくだが広末」
「…!!」


突然聞こえてきた、この賑やかな雰囲気には似合わないクールで落ち着きのある声。


「石神さんっ…!」
「げっ……スパイ!?」
「お、お疲れ様ッス……」


いつの間にか私の後方に立っていたその人の姿を捉えるとそらさんがあからさまに嫌な顔をしてそしてがっくりと肩を落とす。


「私に許可なく夏子さんを勝手に連れまわそうとするのはやめてもらおうか」
「つか、なんでいるんだよー…このタイミングで現れるか?フツー…」


机に突っ伏しながら石神さんを睨むそらさん。
そんなそらさんを無視して石神さんは私の方へと向き直り、


「夏子さん、もう用事は済んだのですか?」
「あ、はいっ」
「では、家までお送りします」
「えっ、でも石神さんお仕事の途中じゃ……」
「これから警察庁に戻るので構いませんよ」


思いがけず石神さんに会えるなんて思わなかったのでつい頬がゆるんでしまう。


「……なんか、思いっきり俺らの事ガン無視してますよね」
「くっそスパイめ……」


ドアの方へと私を促しながら進めていた足をピタリと止め、振り返る石神さん。


「……その花火大会だが、」


そっと私の肩に手を置き、もう片方の手で眼鏡のフレームをくい、とあげる。


「夏子さんは既に私と行く予定をしてある」
「……あっ、あのそらさん……そういう事なので………ごめんなさいっ!」


SPルームのドアが静かにしまり、部屋が一気に静かになった。


「結局こうなるのかよ……」
「そらさん……無理ッスよ…あの人の目をかいくぐろうなんて…いい加減諦めてください」
「くっそー!スパイばっかりいい思いしやがってー!」


そんなそらさんの叫びとともに桂木さんの怒号が響いた頃、私はすでに官邸を後にしていた……





 

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