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夏夜の花
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花火大会当日。


日中の暑さが少し和らぎ、海からの風が心地いい。
そして日が沈むにつれ、花火を見ようと祭り会場は人でいっぱいになってきた。

あちこち出店を見回って歩いているうちに少しずつ石神さんと歩調が合わなくなってくる。
それでも必死について行こうとカランコロンと下駄を鳴らしながら石神さんの背中を追った。


「夏子さん……?どうしました?」
「あ……」


どうやら私の異変に即座に気付いたらしい。
立ち止まってこちらを振り返る石神さんが気遣うような眼差しを向ける。


(やっぱり、石神さんには隠せないか……)


慣れない下駄を履いたせいで靴擦れを起こしてしまったその足をひょこっと前に出す。


「すみません……履き慣れなくて、指の間が擦れちゃったみたいで……」
「全く……痛いならすぐに言えばいいのに」
「ごめんなさい……。あっ、でも最初はそんなに痛くなかったんですよ?」



“とにかくこちらに”、と言って近くの石段まで連れて行かれた。
自然と腰に手を添えられ急に近くなった石神さんとの距離にドキリとする。


いつも持ち歩いているポーチに絆創膏を入れておいてよかった。
私の前に屈み、器用に足の指に巻いて貼ってくれる石神さん。
石神さんの指が足の指にふれる度にドキドキが伝わってたんじゃないかな、と思う。
そんな私をよそに、慣れた手つきで絆創膏を巻いた石神さんが辺りを見回す。


「しかし混んできましたね……この足でこの人ごみを歩くのはやはり無理なのでは?」
「私なら大丈夫ですっ!絆創膏貼ってもらったおかげでもう痛くないし!」


心配させたくなくてパッと立ち上がり、石神さんに向かって笑顔を向ける。
石神さんの手当のおかげで痛みが少し引いたのは本当だ。


「………」
「石神さん?」


人ごみの向こうの方を見ている石神さん。
私の呼ぶ声にハッとこちらを向き、眼鏡のフレームをきゅっと上げる。

そして。
私の手を引き花火会場とは逆の方向へ歩き出した。


「夏子さん。場所を移動しましょう」
「えっ?」
「どのみちこの足で長時間立ちっぱなしになるのは無理でしょう。
……実は花火なら私の部屋からでも見えるのです。……良ければ私の部屋で見ませんか?」
「え……っ?」


思わぬ展開に頭がついていかない。
石神さんは「私の部屋で」と言った。

石神さんとお付き合いを始めてからというものの、やはり多忙な石神さんと会う機会は普通の恋人同士のようにはいかず、まだ数えるほどだ。
だから当然ながら部屋に呼ばれたこともまだ一度もなくて……


(えっと……つまり、今から私は、石神さんのお家に行く……って事、だよね?)


ようやく頭の中の整理が出来始め、その事実を理解したとたんに顔がかあっと熱くなってきた。


「夏子……?」
「あっ……は、はいっ……お邪魔します……!」


人ごみから離れた歩道で、2人きりの時に出る石神さんの砕けた呼び方に胸が高鳴り、まともに顔が見られない。

石神さんはそんな私の心情に気づいているのか、優しく手をとりそして足を気遣うようにしてゆっくり歩き始めた。







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