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Summer Kiss
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コンコン。


夏子が離れのドアをノックすると、間髪入れずにガチャリと扉が開いた。

清墨がクイッと顎を上げて部屋の中へ入れと合図する。

トレイの中身をジロジロ見ながら、清墨は言う。



「遅い。待ちくたびれた」

「夕飯の洗いものもあったし、かき氷の準備があったんですッ」

「ああ、そうか。確かに…俺も手伝えばよかったな。悪い」



めずらしく殊勝な台詞を零しつつも、清墨の目はかき氷器に釘付けだ。

前から後ろからくまなく眺めては「なるほど」やら「この部分は何だ?」などとブツブツ言っている。



「清墨さん、かき氷器使うの初めてなんですよね。かき氷食べるのも初めて…ですよね?」



夏子の言葉に、清墨は一瞬動きを止めてジロリと夏子を見る。

けれどどこか悔しげな、バツが悪そうな表情だ。



「しょうがないだろう。食べる機会がなかったんだ。笑うな」

「笑ってないですよ!楽しみにしてくれてるみたいでうれしいです」

「フン。いいから作るぞ」



照れ隠しなのか何なのか、清墨はさっさと会話を終わらせると氷の塊を手に取った。

夏子があれこれとレクチャーしながら、準備を進める。



「そうそう、その状態でお皿をここに置いて…あとはこのレバーをくるくる回してみてください」

「こうか?」

「わ!でてきた!」

「けっこう力作業なんだな…」

「すごい!清墨さん上手です!」

「当たり前だろ。お前と一緒にするな」

「なっ…私だって案外上手かもしれな…」

「おい夏子、どこで止めればいいんだ」

「わわ、もういいです!お皿からこぼれちゃう!」



シャリシャリと音を立てて、ガラスの器に山盛りになった氷を見て清墨は感嘆したように目を輝かせた。

粉雪のように輝く氷の粒とガラスが反射して、削りたての氷は目にも涼しげだ。



「まるでスノードームだ。日本の夏は奥深い」



いつもは飄々としている清墨があまりにうれしそうにしているので、夏子もわくわくしてくる。

2つ目の器にも同じように氷を盛ったところで、夏子はわざと仰々しくシロップを清墨の前に並べた。



「これがシロップです!」

「体に悪そうな色だな。悪くない」

「これがイチゴで、こっちがメロン。あとレモンと、青いのはブルーハワイです」

「ブルーハワイ?リキュールなのか?」

「えっと…お酒じゃないです。あれ?何味って言ったらいいのかな。と、とにかく!ブルーハワイって名前なんです!」

「ったく、いい加減な説明だな。まあ食べれば分かるか」

「どれにします?」



夏子の問いかけに、清墨は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。



「清墨さん、氷が溶けちゃうから早く決めてください」

「無茶を言うな。俺の人生初のかき氷なんだぞ」

「でも…ほら!全部試してみればいいじゃないですか」

「どの味が定番なんだ?」

「定番というと、やっぱりイチゴ味かな」

「ふーん」

「それじゃイチゴにします?」

「いや、ブルーハワイにする」



清墨は相変わらずの天の邪鬼だ。

夏子は一瞬「え?」と驚きつつも、子供のように氷を盛った皿をツイと差し出す清墨がなんだか可愛くてしょうがない。頬がゆるみそうになるのをおさえて、夏子はブルーハワイのシロップをトクトクと天辺から回しかけた。

シャリっと音をたてながら、清墨の手には“THEかき氷”の姿が出来上がっていく。



「なんてゴージャスな…まるで富士山だ。Mt.FUJIだ!」



清墨らしさ溢れる感動の言葉に、夏子はふふっと笑いながら、自分の皿にはイチゴシロップをトッピングした。

興味津々な表情でかき氷を凝視する清墨はチラッと夏子のかき氷を見てからスプーンを手に取った。


「いただきます」






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