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あいつが大きくため息をついた。

ある意味反射的に背中に声を投げる。

「どうしたんですか桜場せんせぇ〜?ため息なんてついちゃって」
「…京平か。なんでもないよ。」
光一は声だけで俺だと判断し、こっちをみないまま答えた。なんかその感じ腹立つな、嫌々答えてるみたいで。
「…お前さぁ…変な噂たったら困るから『桜場先生』『梶原先生』って呼び合おう。って言ったのお前だろ?言い出しっぺがルール破んなよな。」

忠告と同時にからかうように口元を変に吊り上げて言う。
「…悪かった。気をつける。」
たぶんなにもかもお見通しの桜場大先生は呆れたように返し、尚も俺に視線をくれない。
まぁ慣れちゃったけどさ。

「…っ……あ!そういやさ、お前清水とどうなってんの?」
(うぁっ馬鹿、俺!)
光一の冷たい態度にぐっと喉に蓋をされたような錯覚が一瞬起こり、どういうわけか1番出したくない話題が声になる。冷たい態度、ってかそれが光一の普通だってのに、あぁもう俺って本当馬鹿。

「…は?何で清水が出てくるんだよ…」

やっぱり怒ったのか光一の声がずしりと低くなる。でもこっちに向いたしある意味ラッキー?

「いやー?今朝清水変だったしー。やっぱあん時のこと気にしてんのかねぇ。」
調子というボロボロのダメ車に乗り込んだ俺はさらなる余計なことを口走って駆け抜ける。とりあえず自分の黙らせ方をおしえてくれ。

「あん時!?やっぱりなにかあったのかっ!?」
(え!?)
光一は勢いよく立ち上がり、俺の肩ものすごい力で掴んだ。
(なんでこんな動揺してんだよ光一、やっぱお前…)

「…こう……桜場先生。」
俺は目の前の男を下の名前で呼びかけて、言い直した。

ゆっくりと言葉を出すことで自分も落ち着いたりしないかと期待も込めて。
「…何だ」
「…ここ職員室。」
諭すように言うと光一ははっと目を大きくして自分の置かれた現実を脳で整理し始めた。
人は、取り乱すと周りが見えなくなってしまうというけれど、それはこの男も例外ではなかったようだ。辺りを見回せば先生方が授業の準備をしていた手をとめ、目を見開いてこっちをみている。
「…っ…失礼しました。」

光一が軽く頭を下げると辻谷先生が軽くフォローして、柏木先生との雑談に戻られた。こういうときだけは大人ってのは楽でいいと思う。越えてはいけないラインを互いに理解できているから。


「…で、あん時って何だよ」
光一は声を抑え、俺の耳元付近で聞いてきた。
そんなに重要なんだな、清水のことは。
ふつふつとまだ温度の上がり切らない油のように僅かな気泡ばかり生まれては弾けて、少しいやかなり腹の奥が煮えた。

「…そんくらい清水本人に聞けば。」

それくらいしか返答が浮かばず、しかも視線まで反らしてしまう。
「…?どうしたんだ急に」
本当にわかんねぇのかよ、とは言わないが。


「いえ別になんでもございませんよ?僕授業あるんで失礼しますねぇ〜」

俺は嘘くささが鈍感なこいつにも伝わるであろうほど明るくそう言って、そそくさと職員室を出た。

足を止めずとにかく歩く。とにかく。
(くっそ…!!)
赤色の感情のせいではやる歩みにまた苛立つ俺が、
1時間目は授業がなかったことに気づくのはその約3分後だった。
 



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