そいつは、俺の想う相手とは対極にいる男だと、唐突に思った。
「長谷川、お前はやいな…何か用か?」
「いや?別に」
首をかしげて笑う姿は取り繕ったような子供らしさが溢れていて。そして、俺は男が好きなわけではないと実感させられた。
同じ男でもこうも違う。
こいつには何も感じない。
俺は桜場光一という人間に大して様々な感情を抱きすぎる。
…なんかすごく長谷川に失礼な気がするけど。
「梶くんてさぁ、」
「なんだよ」
「桜場のこと―…」
「え?」
声を漏らした口の端が不自然につりあがったのがわかった。
「おはよーございますー」
「!」
なんつーの、ほらよくある"大事な話してるときに人が来る"パターンですよ。
「っあれ、どうした?誰かに用事か?」
黒髪短髪の彼は長谷川の顔を覗いて問う。浅黒く焼けた肌が彼の活発な性格をダイレクトに表現していた。
長谷川はおそらく彼が苦手なのだろう、彼に聞こえぬように舌打ちをして(いるようにみえた)、
「いえ。また今度でいいです。それじゃ、失礼しました」
「あっ待て、長谷川っ」
小さく会釈してその場を去ろうとする。その男を引き止めようとする声のボリュームは俺の予想から2つほど大きかった。
理由なんてわかりきってるっつーのに、長谷川を呼び止めなくちゃならないという意志があまりに自然にでてきてしまって、俺は自分に予想外な驚きを与える。
俺達の重要な会話を遮ってくれちゃった夏川先生は「…ん?」と漏らしてこの表情。
長谷川は俺なんかに見向きもせずその場を去った。
「どうかしたの?」
「あ、いえ、別になんでもないんですけど」
なにかあったのは長谷川のほうだし。
つか、『桜場のこと』で始まる文章なんて8割ぐらい想像できちまうだろ。
(…どうする、)
もし俺の光一への感情が長谷川にばれていたとしたら、俺はどうするべきなんだろうか