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「あのな、」

喉が麻痺したように震えている。
どうしてあいつは俺を見て満足そうに笑っているんだろうか。ふざけんなと怒鳴り散らして、ぶん殴ってやって、一度くらい心から謝罪の言葉を言わせてやりたい。


「お前は、俺が好きであるということの責任をとれ!」


「…は?」
(――って何言ってんだ俺、日本語下手くそか…!)

突き付けた人差し指も自信を損ないかくんと頭(こうべ)を垂れる。この全身を駆け巡る曖昧で不透明でぐちゃぐちゃのなにかをこいつに伝えなくてはならないのにそれが文章化できない。
羞恥か走った後の疲れかもしくは別のなにかが理由で熱くなる顔に手をやった。そのまま額に向かわせ軽く頭を抱える。

「…清水、」
「あぁ!?」
「…大きな声を出すなよ…」

あいつは呆れたように言った。
悪かったな、余裕ねーんだよ。

「今の…オレには告白の言葉に聞こえたんだが?」
「はっ!?」

この馬鹿野郎は意味のわかんねぇ言葉をゆっくりと問うように言って、無駄に綺麗な顔でこちらをみる。馬鹿野郎は俺のリアクションに驚いたのかまるで馬鹿みたいに馬鹿して馬鹿で

「ばかやろうが!」
「は!?」
(あーあーなにいってやがるんだこいつはばかか)

「…じゃあ今のを日本語訳したらどうなるって言うんだよ…」
「だからっ」
「責任、取ってやるよ」

音の立ちそうなほどの静けさが俺達を包んだ。

「…、…一生。」
「!」
どくん、とまるで喜ぶみたいに心臓は正直に跳ねて、俺は目を見張った。
「あほか、お前っ」
本音なんて絶対に言えないけれど。こいつの声に敏感になる体は嘘をつくのがかなり苦手なようで。


「それくらいやれば、お前だってオレにめろめろかも知れないだろ?」


なんてふざけたことをぬかすふざけた男。たった数週間前までただの教師だった男。
こいつに向かう俺の感情が、ほかの人間に送られるものとは違うことは認めてやろう。この男のあの真っ黒な背中を見てるだけで呼吸が苦手になってしまうこともまぁ事実だ。
この感情になにかしら名前をつけるとしたら何になるだろうなんて、正直あんま考えたくない。ぜひとも長い目でみて、じっくり判断させていただきたいもんだ。

「残念だな、桜場」
「ん?」

眉を寄せるこいつに、きっぱり言ってやるさ。
男らしくな。

「俺はお前が嫌いだ。」

突き付けた人差し指はしっかりと目的地を捕らえてブレない。この全身を突き抜ける不安定で力強いぐるぐるのなにかをこいつに伝えたくて、でもなんて言うか悩む必要なんてないから、ただ、それを音にするだけだ。
しっかりと酸素を吸い込んで、真っ白い学校にこの言葉が響くように。



「一生な!」











アフタースクール
桜場×清水編
『俺は数学が嫌いだ。』
第二章―終わり―



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