時系列も野球事情もぶっ飛ばして一ノ瀬塔哉の誕生日を祝いたいその12。とびっきりの友愛を君に贈ろう、10年後も。元あかつき生徒会会長こと磯部彰+α。
※モブ多数、捏造過多。苦手な人は戻るボタンをお願いします。また、一ノ瀬さんのキャラもだいぶ崩壊します。時系列はぶっ飛ばしてお考えください。学生→成人です。

『一ノ瀬(くん)、誕生日おめでとう!!』
鳴り響くというかやかましいくらいの破裂音、コンマ一秒もなく発射される色とりどりのカラーテープ、一気に漂い始める火薬の匂い。
十数本ものクラッカーを向けられたことなど、二十年弱生きてきて経験したことなどなかった。
クラスメイトほぼ全員から、誕生日を祝われることなんて、初めてだった。
一ノ瀬塔哉は、軽々とキャパを超えていった脳内そのままフリーズし、あろうことか肩にかけていた鞄を床に落とした。にわかに、ざわめきだす教室内。
滑ったんじゃね、迷惑だったかな、つーかクラッカー多すぎだろ、誰だ景気よくやろうっつったの、君だよそれ、様々な声が聞こえてくる。違うと、何かを否定しようと、口を開きかけた。
『えっ!? 泣く!?』
『……何でそうなるんだよ』
鞄を拾うことも出来るくらいには、凍結が解除されてきた。そして生憎、ゆるみかけた涙腺はたった今引き締まった。
呆れたような声、しかしそれを物ともせず、何を見透かしているのか知らないが、伊達眼鏡の奥の瞳がにっと笑った。
『泣いてもいいのよ』
『うるせえ』
『ひどい』
あれっていじめじゃありません奥さん? などとたわけた話しかけの先にいるのは、調理部に所属している女子だ。小柄な彼女が手にしているのは白い箱。ケーキ屋さんでよく見るそれは、その通りにケーキが入っていると言う。しかも手作りだという。
嫌いじゃなかったらいいんだけど、とはにかむ彼女に嬉しいと微笑んだ。イケメンめと野次が飛ぶ後ろを振り返ってべーと舌を出すその背後で、ついさっきまではにかんでた彼女が膝から崩れ落ちたのを一ノ瀬は見なかった。
『相変わらずダイナミックだなあ……』
『なんか言った?』
『なーんも』
いつの間にか彼女の近くではなく一ノ瀬の正面に回り込んできた銀髪。彼女が一ノ瀬への諸々の思いの丈余ってオーバーリアクションをすることは、一ノ瀬以外のクラスメイトはだいたい知っている。たまに一ノ瀬の目の前で及ぶこともあるが、それに対して引くことはないのが彼の人の良さだと磯部は思っている。驚きはするけれど。
女子一人とっても、色が濃いこのクラス。これで、成績学年トップクラスの三十人が集まっているのだから、人は見かけ……人格によらない。
文武両道をモットーに掲げているあかつきでは、普通科、二年からの文理別コースとは別に、特進クラスというものが存在する。一ノ瀬のクラスがここだ。頭もいいがキャラも濃い、と他クラスからよく噂されているのだが、それに異を唱える者ももういなくなってしまった。三年のこの時期になれば、色々な意味で諦めがつくというものだ。学校自体ほとんど来なくなることもそれに拍車をかけた。
ではなぜ、自由登校ばかりになったはずの高校三年生が、こうして学校にきているのか。答えは単純、学校側で定められた登校日だからだ。それがちょうど、以前聞いた一ノ瀬の誕生日であったから。誰がサプライズをしようと言い出したのか、一ノ瀬はそんなことは聞かないだろうけれど、発案者はにんまりと笑って、もう一度一ノ瀬を祝福した。
『誕生日おめでとう、一ノ瀬!』
それに続く続く祝福の言葉。拍手の音。誰かが吹いた指笛。なんとまあ賑やかしいことか。それが自分を中心に起こっていることが、不思議な気持ちだった。ありがとう、その言葉を何度も繰り返した。

「……何で来たの」
『友達んち来ちゃダメなんですかー』
「お前が友達?」
はっと鼻で笑えば「謝るから鼻で笑うのやめて」とモニターから頭を下げられる。一ノ瀬は彼が友人であると主張する度に真っ向から否定することが多々あった。そして毎度彼はひどいと言いながらも気にしない。そんなあしらいあしらわれの関係が、あの高校生活で出来上がってしまった。大人になったところで早々変わりはしない。
磯部彰がサモエド同然の格好をしていることに、うわあと引いた顔をする一ノ瀬。玄関先で待っていた磯部は「寒がりなんだよ」知ってるだろ、とその顔に反論する。
「もやしだもんな、お前」
「プロ野球選手とは違うんだよ!」
「平均以下のくせに」
「平均ですーむしろ身長は平均よりもお前よりも高いですーどや」
「チッ」
「本気の舌打ちやめよう?」
傷つくから、ね、と磯部は言い、勝手知ったるといった様子で廊下を歩く。リビングに先に入った一ノ瀬が「何飲むの」と訊く。「コーヒーあったら。ありがとね」と磯部が答えた。
椅子に座って伸びをする。その磯部がテーブルに置いたものを見た。それは、色んな人からもらった、白い箱。
祝いにきてくれたの? お湯を注ぎながら尋ねた。うん、と磯部が頷いた。
「遅くなっちゃったけどさ。誕生日、おめでとう」
かつての級友からも、今のチームメイトからも届いた、おめでとうメッセージと言うもの。午前0時ごろ、鳴り止まない通知音を慣れない操作でどうにかこうにか裁いてから、全部見直した。そのなかに、勿論彼のもあった。
「別に毎年じゃないんだから、いいのに」
「毎年プレゼント欲しいの?」
「耳鼻科行ってこい」
「聴力検査Aしか取ったことないぞナメんな。たまにでも嬉しい?」
「……それなり」
素直じゃないねえ、磯部彰は昔とそう変わらない軽快さで笑う。それに口を閉ざし、カップを二つ持っていく。
思い出したように、直接祝いにくる。こうやって少し遅れる時もあるが、それは特段気にすることでもない。口にはしないが、喜んではいる。若い頃から反則級に悟い彼のことだ、きっと気づかれてる。それを磯部に言えば、一ノ瀬が結構わかりやすいんだけどねと答えるだろうが、意味のない仮定だ。彼もそう無粋なことは言わないからだ。
「誕生日おめでとう、一ノ瀬」
「……おめでとうって年でもないけど」
「またそんなこと言う」
やれやれと言いながら箱を開ける。そんな磯部に「いい度胸だ」と言いながら持ってきたケーキナイフを向ける一ノ瀬。
「刃物はだめだよ、刃物は。俺切るからそれで許して」
「じゃあはい」
「貴様最初からそのつもりで」
「さあね」
「くそう」
ほんとにそんなつもりはなかったんだけどな。思いながら頬杖をつく一ノ瀬。小ぶりではあるがホールのショートケーキに刃を入れる磯部を、どこか柔らかい眼差しで見つめた。
自分でも驚くほどに、人をぞんざいに扱って、それでも離れることはなかった。それでも、雑なだけでは全くなかった。こちらも、あちらも。また、みんなとも。
縁と言えば、そうなるのかもしれない。なんだかそれがこそばゆくなって、机に突っ伏した。そんな一ノ瀬が先ほど持ってきた皿に、磯部は丁寧にケーキを取り分けているのだった。

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