色々と捏造ばっか注意。約一年前の作品です。
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「いつも待たせてすまないな」
「オレなんかより、テメーの方が倍以上は忙しいんだ。当たり前のことだろ」
崇藤らしい言葉に、祀木の顔が柔らかく綻んだ。行こう、と声をかければ、ああ、と応えて並んで歩き出した。
「そういえば、今日がクリスマスだったか。賑やかだな」
横目で商店街を見遣ると、確かに、普段よりも人が多く賑わっていた。クリスマスらしい電灯の飾り付けが光っている。少し前から、雰囲気がどんどんそれらしくなっていったのは薄らぼんやりと憶えていた。
元々は異教徒の祭日なのに、どうしてここまで騒ぎ立てようとするのか。この感覚は昔からよく分からない。誰かにきちんと愛されて育ったのなら、きっと特別な感情も抱けるのであろうが、生憎自分は恵まれなかったのであった。
「うっとうしいくらいにな」
ボソッと呟かれた言葉に苦笑して、祀木は言う。「それは無いだろう? ……楽しそうだ、みんな」
ふっと表情を緩めた彼は、どこか遠い目でその景色を見ていた。……少なくとも自分よりは、この日が印象に残っているかと思ったのだが。目線の先を自分も追ってみれば、楽しそうに笑いあう親子が歩いていた。
気がついたら彼は立ち止まっていた。オイ、と声をかけると、「あ、すまない」と言って、またも歩を進める。しかし、横から見た顔はどことなく、寂しげだった。
崇藤には、祀木が時折、消えそうなくらい儚く映った。
とっても透明で、そのまま空気に溶けていってしまうのではと錯覚を覚えたことが幾度かある。
普段の彼を見てそんなことを思うのは到底ありえなかったが、崇藤といる時だけ、彼はそう思わせる表情をよく見せた。
自分といてもそうなってしまうのかという虚しさと、自分だからこそ見せるのかという優越感とで、いつも混乱しそうだった。
いつも、祀木に関わっているとこんな些細なことも気になってしまうという事実に、少しの居心地悪さと快さを感じていた。
「崇藤?」
今度は自分が、立ち止まっていた。数歩先に、祀木がこちらを振り返っていた。
「どうしたんだ?」
「……何でもねぇよ」
もう普通の顔に戻っていた。けれど、先ほどの表情が思い過ごしとは、崇藤はやはり考えられなかった。
密かに溜息をついて、再度彼の隣に並ぶ。どちらともなくまた、歩き出した。
「クリスマスは普通、家族と過ごすものらしい」
唐突な祀木の言葉に片眉を上げる。祀木は崇藤の反応を待たず、話した。
「日本では、どちらかと言えばカップルで過ごすものと思われているがな。……ボクはそのどちらも、まともにやったことがない。特に後者」
だから、と祀木は続けた。
「だから、ボクは今年、どうしたらいいか分からないんだ。家族とは別に、大切な相手が出来たなんて初めてだから」
煌びやかな商店街を抜ける頃に、祀木は足を止めた。二人は夕暮れと灯り始めたイルミネーションを背景に、見詰め合った。
「崇藤は、どう思ってるんだ?」
ほんの少しだけ、泣きそうに顔を歪めて、とてもアバウトに聞いた。けれど崇藤は、何となく、祀木の言った意味を理解していた。
クリスマスを共にいたいと思うほど、自分に想いを寄せているのか。もしくは、一緒にいたいと思っているかどうなのか。
崇藤の答えは、やっぱり素直には表さなかった。(意地っ張りで素直になれない自分を恨んだ)
薄暗い場所を見つけて強く腕を引っ張って、ぎゅっと抱きしめた。
見上げてきたのが気配で分かったが、有無を言わさないようにまた力を込めた。
祀木は、やがて顔を崇藤につけた。回された腕や華奢な肩、細い身体が震えていたのは、これは思い過ごしだと思いたかった。
「オレは、どうでもいいやつに、こんなことはしたくもねえ」
こんなに、壊したくなくて、優しくしたいなんて思うわけが無い。
崇藤の囁きに、うん、と祀木は小さく言った。とても弱弱しい声で、一抹の不安が浮かんだが、心配は必要なくなった。
すっ、と彼の腕から力が抜けた。崇藤も祀木を解放すると、崇藤を見上げたそれはそれは綺麗な顔が、ふわりと微笑んだ。それはもう、心臓を鷲掴みにされるくらい、綺麗で。
「……メリークリスマス、崇藤」
あまり彼らしくはない台詞。でも、それがやけに可笑しくて、気がついたら自分の頬も緩んでいた。
「……メリー、クリスマス」
緩んでいたのは、頬だけでなくて目線もだったのは、その後すぐに気がついた。
不器用な愛と祝福を君に(それでも 微笑ってくれるというのであれば、)
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