雀や、他の小鳥達が鳴き喚く。清冽な朝日が深緑の森に降り注ぎ、山は既に目覚め始めている。

その深くに、小さな家が建っていた。
周りの静かなざわめきも耳には届いていない、この家の住人である彼らにも、暖かい光は等しく差し込んでいた。


東雲


不意に、眼の奥に光が煌いた気がした。それを眩しく思い瞼を強く閉じたが、一旦ハッキリした意識を、もう一度眠った状態に引き込むことは出来ず、彼は眼をゆっくり開けた。

眼は開けても、しばらくは布団に包まったまま、何も考えなかった。
思考回路はまだ、まどろんでいたのかもしれない。瞬きをすると、彼の空色をした瞳が見え隠れした。

「…………今、何時(いつ)ぐらいだ…………?」

たっぷり数分呆(ほう)けて、ぼんやり呟きながら寝返りをした。首を廻らせ、隣を見てぱちぱちと眼を瞬(しばた)かせた。

自分の氷の髪色とは対照的な、鮮やかな緋色が、寝ぼけ眼に飛び込んできた。

その赤い髪を持つ青年は、起きる気配を全く見せず、いびきをかいて眠っていた。彼の心情によって変わる耳も、今は小さくなっている。

「……陣、か」

毎日こうして一緒のベッドに眠っているのに、未だ驚くことが多々ある。それから、

「……!!……そうだった……」

―――昨夜の情事があったことも、未だに忘れてしまうことが多い。
凍矢は、主に下半身に疼く痛みに赤くなりながら、素肌を滑らせてそっとベッドから降りた。
早朝にはまだこの解放感は肌寒いので、部屋の隅にある簡単な造りの棚を漁って、肌着と着替えを取り出した。
静かにそれを身に着け、いつもの(とは言っても、周りの妖怪に比べれば低い)体温が戻ってくるのが分かった。服のぬくもりにホッと息をつく。

「………………」

それから、黙ってベッドに腰掛けた。むにゃむにゃと気持ちよさそうに眠る陣に、少しだけ呆れた。
呆れて、「しょうがない奴だ」という気持ちで、仕返し代わりに鼻を摘まんでやった。
陣は息苦しそうに、顔を歪ませる。
あまりそのままでも起こしてしまうので、頃合を見計らって手を離す。すると、陣ははっきりしない言葉で何か呟き、自分が居なくなって広くなったベッドに大の字になった。

凍矢は溜息をついて、身体に負担がかからないように立ち上がった。本当はあまり動きたくないが、自分のほうが先に目が覚めてしまったのだから、仕方ない。朝食を作るのは、大体が凍矢の役目だった。

「お前はのん気だよな……」

二回目の溜息をついた。しかし、その顔は少々苦く、柔らかく微笑んでいた。
彼のその性格を分かっていながら、共に住むことにしたのは、彼を愛したのは、紛れも無く自分だった。


(やっぱり、起こしてやろうか)

ふっとそう思ったが、実行には移さなかった。陽が徐々に高くなっているのが分かったからだ。もう十何分もすれば、自然と起きだしてくるだろう。

「と、うや…………」

「!」

今、確かにその口が、自分の名前を呼んだ。が、当の本人は、すぐさま眠りの中に戻ったようだった。
フッとまた、笑みがこぼれた。愛しく思ったときに浮かぶ、はにかみだった。

「……出来上がっても起きなかったら、凍らせてやろうかな」



東雲
(それは静かな夜明けの時間)

(風が吹き抜ける目覚めの時)



(オレが起きたのは彼が部屋に入ったその瞬間)

(だって何だかいやに冷たい妖気が身を凍らせた)


「…………何で舌打ちすんだ?」

「してないぞ?」

「……聞こえた気がしたべ」


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