Lust&Lip&―――Lies

 
一つずつ、ゆっくりと、ボタンが無骨な指で外されていく。徐々に露になっていく白い肌は、彼でなくても大抵の男なら興奮を禁じえない。――それが例え同性だったとしても、だ。
ボタンを外す小西は、ふざけた顔は一切していなかった。瞳も、真剣そのものだ。ただし、その色には情欲も混じっていたことは、下仲も享受せざるを得なかった。
自分が、されるがままになっていることに、抵抗しようとはしない。ただ、その光景とこちらを見る精悍な顔を直視出来ず、自分が見ないで済むように顔を横に逸らしてはいた。

そっぽを向いた横顔の美しさに、胸の高鳴りを感じた。時折、少しだけ伏せられた瞳が、一瞬だけ自分の様子を伺って、またすぐに眼を逸らす。長い睫毛が揺れて、どこの美女かと錯覚してしまった。
握ったら折れそうな細い指がシーツを僅かに握ったのが、手を止めないまま眼に入った。まあ、気丈と言おうか。恥らっていることを、隠そうとしているのだろうか。こっちとしては、素に戻って欲しいのだが。
「……こっち、向かないのか?」
「!……、…うるさい……」
小さく文句を言うが、その言葉には覇気がまるで無い。観念しているんだかしていないんだか、ちょっと判断がつけにくかった。
心の底では受け入れているのだろうが、恐らく、彼の意地だ。――本当、彼らしいというか、何と言うか。
「……下仲」
名前を呼びざまに、
「!」
軽く口に触れた。そのまま離れず、薄く柔らかい唇を啄ばむ。どうやら拒否する気は無いらしく、普段と比べれば比較的大人しくキスに答えてくれた。
「っ、…ん……、…ハっ…」
相変わらず、イメージと違う幼いキスだ。初々しい、と言った方が正しい?―――巧い、とは思うが、それでもどこか拙い気がする。
自分相手だからか。そう考えて、随分な優越感に浸った。同時に湧き上がるのは、受け入れてもらえる、という安堵感だった。



「……いい加減、慣れろよ」
十数秒の、キスが途切れた。小西は僅かな距離だけを空けて、唇の代わりに指を置いた。深い黒の瞳が、下仲の目を真正面から見る。
「っ…、…無理を、言うな……」
その真剣さに、目のやり場に困って小西の顔から目を背ける。すると、まるで子供のようにごくささやかな不快感を露にする彼は、無理矢理顔をそちらに向かせた。
また口づけられる。少しだけ強引で、ちょっと不器用な。でもそれすらも、心地いいかも、と思ってしまうことが、
(…畜生……)悔しかった。
気がついたことは、この人のキスは長い。その上しつこい、ということだ。むしろ直接的な行為よりも、キスのほうが好きなのかもしれない。
聞いたことは無い。ストレートに答えてくれそうではあるが、何となく聞くことが憚られた。

たった、6,7年。それだけの差なのに。それだけは、どれだけの差なのだろうか。

彼に、明確に年齢を聞いたことは無かった。(誕生日は以前に一度だけ言っていた)聞いてもいいのだが、キス云々と同じで、今の今まで聞けてはいない。
彼のほうが早く生まれているのだから、それだけの何かがあるのは当然の話だ。例え彼の口から語られても、追いつけないこともまた当たり前の話で。
しかしそれを、胸を焦がしながら、もどかしく思うようになるとは。
自分を馬鹿馬鹿しく思うことのほうが、多いに決まっている。ここまで、他人に執着する自分がいるなんて、信じられなかった。

信じられなかった。しかし、いつまでも現実から目を背けるほど子供のままではない。
だから、悟られないようにする。それを自分に条件に課して、仕方なく、認めた。

「!……」
キスをしながら、やや薄い胸板に小西は手を滑らせた。下仲は、抵抗はしなかったが、少し肩を揺らした。
「……嫌なら言えよ」
小西は、事に及ぶ前はいつもそれを言う。下仲が、本気でそう言ったことは、無かった。
「…言えば、やめるんですか?」





「……悪いな」
そして今宵も、またいくつか隠し合ったまま。


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