星爛アリア
約束
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私の席は窓際の一番後ろにある。開け放たれた窓から風が入ってくるのとほぼ同時に入ってくる風霊に息を吐く。見つかったらどうなるか考えていない風精と最初から手で遊んでいた火霊、ルビーはペンを持っていない右手に来るからペンを持つ手を変える。弄びながら、時折前を向いて板書を写す。授業はつまらないが、戯れる時間は好きだ。ぷにぷにな柔らかい頬を続くと嫌がるように首を降る。その行動に頬を緩めた自覚はあった。まさか、ディアスターの一人に見られていたとは思わなかったけど。
授業が終わり昼休み。私は二体の小精霊――風霊とルビー――を連れて中庭に行く。風霊は昼休みに来ることもあるが、ルビーを連れて中庭に行くのは日課だ。昼食を食べて、お昼寝。これも日課。音には敏感みたいで、誰か近づいたら起きるから問題は無い。基本的に誰も近づいてこないような場所なのに、今日は違ったらしい。お昼寝をしているときに誰か来た。目を開けて確認をすれば、ディアスターのヴァリアッツがいた。
「なんです? ヴァリアッツ」
「中庭に行くのが見えたから……」
「そうですか。で、他のディアスターは? 一緒に食べてるんでしょう?」
「いや、俺だけだよ」
それには私も驚いた。ディアスターはいつもみんな一緒のイメージがあったから、まさか単独行動することもあるなんて思いもしなかった。私の考えを悟ったのか、「いつも一緒にいるわけじゃないよ」と言われたら、そうか、としか言えない。ヴァリアッツは私の隣に腰をかけると、寝転んだ。制服が汚れるけどいいんだろうか。
「お昼、いつもここにいるの?」
「晴れた日だけです。雨が降っていると、ここでは寝れませんから」
「そうなんだ。どうしてお昼寝するの?」
「妖精と戯れて疲れるからですね」
ガンッと衝撃を受けた小精霊二体はよろよろと私の腹部まで降りてくる。また笑って、小精霊の頭を親指で撫でれるくらいに小さい精霊。妖精と一緒にするのは、妖精も小精霊も一緒にいるときが多いからだ。擦り寄る小精霊二体は私の頭へ移動して髪でかくれんぼをし始めた。
「……もっと」
「ん?」
「もっと笑ったらいいのに」
「いきなりなんですか」
笑えるなら笑うが、別に笑わなくていい場面で笑ったら、それは変人ではないだろうか。私の考えていることがわかったのか、ヴァリアッツは笑う。わりと失礼だ。
「なんかさ、妖精といるときって雰囲気違うよね」
「そんなことないと思いますけど」
「優しいんだよ、妖精といるときだけ!」
「妖精は隣人で友達ですけど」
「ほら敬語! それに友達って……俺たちは?」
「は?」
訝しる私にヴァリアッツは続ける。
「敬語だから遠く感じるんだよ」
「はあ」
「敬語、やめよう?」
やめよう?って言うけど、そんなに親しくないヴァリアッツに言われることだろうか。
「マリアには敬語じゃないでしょ」
「ジヴェールは三年の時に『アシスティを使えるようになったら敬語をやめる』という約束がありますから。」
「じゃあ俺たちにも……」
「それは約束ですか?」
「う、うん」
「では、追試験で合格したら敬語をやめます」
約束してヴァリアッツは帰っていった。いったい何しに来たのだろうか。