星爛アリア
反感
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 教室に行って席に着くと女子生徒に囲まれた。私は今年で十八歳だ。しかし、私の身長は低い部類に入る。この国の平均よりやや下回る私は、だいたいの人は見上げなければならない。だから、囲まれてしまうと首が痛くなる。そんなことは関係ないとばかり囲む彼女たちは威圧的に感じた。


「なんであなたなのよ」

「彼らに訊いてください」


 彼女たちは私がディアスターにアシスティを教えるのが気にくわないらしい。


「成績なんて私たちより低いくせに」

「アシスティが無くても彼らが優秀であることに変わりはないわ」

「今すぐ降りなさい」


 これは、決定権は私にあると思っているのだろうか。私に決定権は無いし、頼まれたから教えることになっただけだ。それに成績だって拘りが無いから手を抜いているだけで、誰よりも――それこそ、ディアスターよりも上と自負している。これがいけなかったのか。
 アシスティの試験は実技だから先行しただけで、元々二週間後には筆記試験だ。私が彼女たちよりも、ディアスターよりも上だったら問題ないだろう。存外負けず嫌いな気[け]がある私は気づいたら口を開いていた。


「二週間後の試験。あなたたちよりも成績が良いなら問題ないですか?」

「え?」

「まあ、そうだけど……」

「じゃあいい」

「カンニングは禁止ですわよ」

「当然です」


 絶対に無理だと思っているだろう彼女たちの反応が楽しかったと思う私は、性格が悪いのだろう。
 彼女たちが去り、入れ替わるようにディアスターが来た。その中にはジヴェールもいる。


「えっと、取り込み中、だった?」


 代表して戸惑ったようにヴァリアッツが問う。それは先ほどのことも言っているのがわかる。別に取り込みと言うほど取り込んでたわけではないから首を降って否定した。ただ、ゲーガンは「彼女たちは成績上位者だぞ。大丈夫なのか?」と訊いてきた。抜けるのか、という意味なのか、難癖か、という意味なのかがわからない。無難に「大丈夫ですよ」と言えば、眉を潜められた。


「得意科目で良ければ教えるが?」

「大丈夫だと言ってます」

「けどさ、教わりっぱなしも悪いなって考えてるんだよね」

「うわっ」


 リーヴィスが私の後ろから首に腕を回して体重をかけてくる。耐えれないことはないが、重いのとは別だ。バランスを取るために机に置いた手、支える腕に振るえは無い。こういうのを見てしまうと、自分の怪力が目に見てわかる。リーヴィスは「でも考えてみてよ」と続けた。


「マリアとは取引したんでしょ?」

「……」

「ね、マリア」

「ええ、しましたね」


 私とジヴェールの取引――もとい約束。アシスティが使いこなせることを秘密にすることと、ガラドさんとの関係を秘密にすること。アシスティは四年で学ぶ。入学時、使えることはまずない。私は使えるが、ジヴェールは使えなかった。使えなくてもいいが、使えるようにはなっておきたい。三年のジヴェールは教師に相談し、私を紹介された。その教師というのが、ガラド・パーシング。私の六年来の友人であり、クレソプレース魔法学園への入学を勧めた人物でもある。一般高校ではなく、魔法学園を勧めたのは、協調性の他に魔法の基礎について教えるためでもあったらしい。
 脱線したが、教えた時に交わした約束のことを言っているようだ。言われたところで、あの時と今では状況が違う。学園の一貫と個人的な指導は違うものだ。対価は私が決める。それに、教えてもらったところでわかっているのだから問題はないはずだ。


「ジヴェールとあなた方では状況が違う。ジヴェール、あなた楽しんでる?」

「だって、私とケヴィン以外でディアに話しかける人、いなかったでしょう」


 ディアとは私の愛称の一つだ。保護者代わりのアイリス、その友人のグシオンさんとガラドさん。この三人はディーと呼ぶ。
 ケヴィンは私のペアで、学校のいろんなことで私のパートナーとなってる人だ。それなりに仲はいいと思っている。


「それで、楽しんでると? やめてよ」

「いい兆候だと思ったのだけど……」

「そうは思わないんだけどな」


 溜め息を吐いたところでガラドさんが入ってきた。チャイムが鳴って、ディアスターも含めて生徒は慌てて席に着く。不躾な視線が、私には向けられていた。


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