星爛アリア
教授
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 第一体育館から逃げ帰った翌日。教室に行くとディアスター二人に捕まった。引きずられるように移動させられそうだったから抵抗したら、担がれて暴れられなくなった。落ちたら痛いだけだ。空き教室に連れられて、周囲を見渡すとディアスターが勢揃いしていた。わけがわからなくなってジヴェールを見ると、手を合わせている。謝るよりどういうことか説明してほしいんだけど。


「突然連れてきて申し訳ない」

「人拐いができますね」


 これくらいの嫌味、許してほしい。こっちはびっくりしたんだからな。けど、私の言葉は無視して彼らは本題に入った。なんでも、アシスティを教えてほしいんだとか。アシスティが使えなかった人は早い者順でアシスティが使える人に教えを乞うが、指導者を自由に選べる。が、拒否可能である。私はどちらでもいいのだが、理由が知りたい。基本的に妖精といる変わり者の私を、彼らはなぜ選んだのか。私は人に何かを教えることに向いていない。向いていない、というよりもできない≠ニ言った方が正しいか。幼い頃から妖精や召喚獣は隣人で、魔法は彼らよりも身近にあったから使えて当たり前。なぜ使えないのかわからないという致命的な欠点を持つ。メアリー・ジヴェールに教えたときもその欠点のおかげで泣かれた気がする。なのに、そんな私に教えを乞うなんてどういう気だ。


「私は止めたのですよ? フェルドさんは厳しいって。なのにみんな、フェルドさんがいいって」


 困った、というか呆れたようなジヴェールに私は「そう」とだけ返す。そうか、私が良かったのか。ジヴェール曰く厳しいけどいいのか。断る理由もないから内心、どうしようかなと考えていると、ディアスターの一人が前に出た。ヴァリアッツだ。彼は私の前に来ると笑顔を作る。どういうことかわからずにジヴェールを見ると、「お礼を言いたいそうです」とだけ言う。お礼ってなんのお礼かわからない。何かあったろうか。


「昨日は助けてくれてありがとう」

「昨日?」

「ほら、試験のとき」

「あれは……ヴァリアッツがくれた善意のお返しですから」


 善意について覚えがないという感じのヴァリアッツは曖昧に笑った。困った顔よりはマシだが、気づいていないのは彼の美徳であり欠点だろう。


「試験に間に合ったのは君のおかげです」

「だから、助けてくれた?」

「はい。善意に善意を返しただけですよ」

「言い方を変えれば、その善意≠ェなければ助けなかった、ということか」


 そうかもしれません。
 私の言葉に押し黙るディアスターたち。唯一、私を多少なり知っているジヴェールだけは違う。申し訳なさそうだ。知らない人間からするとこんなものなのは知っている。私は人間があまり好きではない。正確に言うと、人間界の人間を好まない。ジヴェールには人嫌いだと伝えてある。ただ、妙に律儀と言われる私は善意に善意を返す。それは昔からの、変えることのできない癖だ。


「それでもいいなら、引き受けますよ」

「大丈夫ですよ。フェルドさんは最後まで面倒みてくれますから」


 ジヴェールの言葉で、満場一致で私が彼らにアシスティを教えることになった。今日の放課後からというので無理だと伝えると、すんなりと了承を得られ、明日からアシスティを教える。本当に私でいいのか、一回目次第だな、とこのときに思った。


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