星爛アリア
努力のわけ
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 それからというもの、アシスティの練習は同じことを繰り返している。個人差があるが、最初に魔力を動かす練習に入ったのは意外にもアンカーだった。その次にエンデュミア。彼はディアスターの中では魔力の扱いが一番上手な部類らしくて納得だ。ほかの三人は上記二名より遅れたが、思った以上に呑み込みが早い。これならジヴェールのように使えるようになるまで時間はかからないだろう。


「明日から試験期間だが、フェルドは大丈夫なのか?」

「大丈夫ですってば」

「しかし、彼女たちはあなたよりも成績が上ですよ」

「目に見える成績だけが、すべてじゃないんですよ?」


 にこり、と笑うと案の定、顔を見合わせられる。もう何回もされたことだからタイミングもわかるようになってきた。私は一言が足りないようで、そういうときはきょとんとすればいいことも把握済みだ。ま、何か間違っているのか?という意味もあるのだけど。だいたいにして、彼ら人間が知っていることを私が知らないことが原因らしい。まあ、人間界の常識に疎い自覚はある。だからこの前、「世間知らず」という評価を貰うことになるんだ。でも、それは言いすぎだけと思う。
さて、そんなことよりも試験だが、私としては手抜きさえしなければ問題ないと常々言っている。そう。自信はあるのだ。やる気があまりないだけで。そう言っているのに、彼らは心配してくれている。嬉しいんだけど、何度も言われるとうっとうしい。私だってやればできるのだ。本当に。だから、彼女たちとの勝負は放っておいてほしい。


「ご心配ありがとうございます。でも本当、大丈夫ですので」

「……そうですか。しつこくすみません」

「あー、いえ。でも、よかったんですか? 試験一週間前もアシスティの練習なんかして」

「ああ、問題ない」

「教えてもらったことの復習になるしね」

「フェルドさんにも覚えない?」


 魔法は確かに教えてもらった。けど、私の場合は遊びながらしていたせいから復習と言う復習もしたことがない。人間界とやっぱり違うのか。それとも私に魔法を教えてくれた人たちが不真面目なのか。今になってはわからない。けれど、教わったことは役立っているからよかったのだと思う。教え方はともかくとして。


「私だって、最初は間違えてばっかでした。ゆっくり私のペースで教えてくれた人たちが待っててくれて今の私があります。だから、私だって最初からできてたわけじゃない。でも、私が新しい魔法を使えるようになるたびに笑ってくれたのはうれしかったと思います」


 そうだ。私には彼らがいた。彼らがいたから私はいろんなことを知れた。六年経ってわかるとか、長すぎだ。


「クラウディアってすごいんだね?」

「すごい?」

「だって、家庭教師に教えてもらったってことはいろんな魔法が使えるんでしょ? それに応えるってプレッシャーがあったと思うんだ」

「そんなことないです。みんな面白がって教えてくれたから」


 だからそんな、すごいって言われることじゃない。私は彼らに教えてもらったことがいっぱいある。それに応えたいと思ったから魔法を習得したし、いろんな勉強をした。人間の常識については教えてくれなかったけど、虐げられた人がいるところだったから言いたくないんだと思っていたし、楽しかったから訊かなかった。けど、今は訊いていたほうがよかったと思うもの。これを後悔と言うが、私はそこまで思っていない。
 彼らを見ているといろんなことを思い出して感じるから刺激的だ。私は密かに笑う。


「みんなはどうして、そんなに努力するの?」


なんとなく、聞きたくなった。別に答えたくないなら答えなくていい。ただ、ヒトに教えを乞うてまでアシスティを使えるようになりたい理由を知りたいだけだ。魔力の扱いに慣れてきたから使えるようにはなるだろうけど、そこまでして使いたい魔法かと聞かれたらそうではない。だから、使えないヒトもいるのだ。


「メアリーが……」

「ジヴェール?」

「メアリーが使えるのに、周りの俺たちが使えない、というのはいささか問題なんだ」

「ああ、お家柄ですか」

「それだけじゃないけどね」

「そうでしたか。答えていただきありがとうございます」


 ちょっとだけ、普通とは違う環境にいてよかったと思った。


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