星爛アリア
使いかた
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約束を取り付けられ、ジヴェールも参戦してきた。ヴァリアッツから話を聞いたようで見学らしい。
「今日は昨日言ったように、各々が得意なもの――魔法でやってみようと思うんです」
「魔法?」
「各々、得意な魔法ってあるでしょう? 私なら……アシスティだし、ジヴェールなら全般だけど」
まだわからないのか、彼らは首を傾けている。
魔力を呪文に乗せる時点で魔力を扱っている。それを利用しようと言っているのに。どうしてわからないのか。私は彼らを見上げる。じっと見つめる私に、彼らはわずかにたじろいだ。
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか? ならいいんですけど」
ジヴェールは隅で笑った。それに首をかしげるけど、教えてくれる気は無さそうな態度だ。
とりあえず、だ。彼らに魔法を使ってもらうしかない。
「見本を見せますから」
得意なのは火属性と木属性だけど、危険だから水属性にしよう。たぶん、失敗しても濡れるだけだ。きっと、そう。簡単な呪文を呟く。呪文を言いきり、発動前に止めて魔力を留める。ふわふわと留まった魔力が、髪や制服の裾や袖を揺らした。嫌でも魔力を感じることができる。魔力を発散させ、ディアスターを見た。
「こんな感じです」
「……器用だな」
「そうですか? まあ、ジヴェールも行った方法ですし、大丈夫ですよ。できなかったら別の方法考えますし。ね?」
顔を見合わせたディアスターは頷き合い、各々得意な魔法を唱えた。さまざまな詠唱が聞こえる。ほぼ同時に詠唱が止まり、魔力が留まる。一応、成功したらしい。
「魔力があるの、わかります?」
「ああ」と言ったのはアンカーだ。他は頷くだけなのに、律儀な性格だこと。
「そのままを保って」
慣れていないなら無茶ぶり以外のなんでもないだろう。でも、これができなきゃ次には進めない、と私は思っている。自由自在に魔力を使う第一歩。使えるようになるには個人差があるが、魔力が感じられるならあとは簡単だ。練習あるのみ。脳筋みたいな考えだが教えてくれたヒトの教えを真似ているから私が脳筋なわけではない。たぶん。
そんなことより、昨日より魔力が柔らかいから、こういう方法のほうがやりやすいのかな。扱いやすい、とも言うのか。まあ、私みたいなのが珍しいのだと思う。
彼らを見ると、魔力を保っていられているのがわかる。ここまでは問題ないのか。ディアスターは順応性が高いヒトが多いな。明日からは魔法を使わないで使えるように馴染ませていこう。そうしたら自由に扱う練習をする。これで問題はないだろう。
「やめていいですよ」
魔力の波が教室に広がった。溜まった魔力をそのまま放置にすると体調を崩すことがある。だから、生徒はみんな魔力を放出することを家庭ないしクレソプレース魔法学院の一年で教えられるのだ。大雑把なヒトもいれば、丁寧なヒトもいる。ディアスターも五分の二は波がありすぎて大雑把だった。――ヴァリアッツとリーヴィスだ。あとの三人は波も少なく丁寧だと思う。ジヴェールも同じ考えなのか、眉を寄せてかわいらしい顔を歪めていた。台無しであるが、誰も見ていなければ問題ないと思われる。
「今日はおしまいです。続きはまた明日」
「なぜだ?」
「慣れないことで疲れたでしょう。それに、再来週から筆記試験期間でしょ?」
筆記試験期間を言ったらぽかんとされてしまった。「それが理由なの?」とリーヴィスが問う。そうですけど。おかしい? 首を傾げて彼らを見る。困惑したような表情にさらにわからなくなる。私は後半部分は白紙という手抜きだけど、彼らは全力で挑んで今の地位にいるのだと思っていた。「試験勉強、あるんじゃないの?」私の疑問に答えたのはゲーガンだ。
「勉強はしていますが……あなたも勉強しているのでしょう?」
「私? 全然。課題するくらいですよ」
「は?」
「勉強しなくても一応卒業基準に達することできますし、何より手抜きですからね。ま、今回は本気ださなきゃって感じですけど」
彼らには申し訳ないが、実技も筆記も本気を出したら首席か次席を取れる自信がある。だからあの女子生徒とも約束をしたんだ。今回の試験、私は本気で挑む。でなければ、約束した意味が無い。だから、今回の試験は主席を取りにいこうと思っている。さすがにこれを言うとディアスターにケンカを売っているようなものなので言わないでおく。
「さ、帰りますよ。今日はジヴェールもいるんですから」
「誰かディアを送って行ってはどうかしら。夕方だし、遅くなるでしょう?」
「私は良いよ。強いもん」
「強いと言っても女の子なんですから、危機感を持ちましょうね」
「いいよ、別に。このかた襲われたことないし。ジヴェールのほうが襲われそうな外見してるんだから」
「でも……」
「大丈夫だって。ほらみんな、帰りますよ。ジヴェールも」
ふて腐れているようなジヴェールるを促し、ほかのディアスターに声をかける。今日はおしまい。また明日。次の段階に進むには、もう少し先だろう。