隠して恋情
嬉しいこと
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 神崎君に送られて家に着いた私は、晩ご飯を作っている間も夢心地だった。妹弟にその姿を見られたのが一番恥ずかしい。晩ご飯を作っている時に帰ってきた妹弟は「良いことあった?」と訊いてきた。一瞬躊躇って、頷いた。しかし、頷いたとき、妹弟の顔がしかめられたのはなぜだろう。
 愛樹がお風呂に行っている間、愛衣顔をしかめたときのことを訊く。愛衣はきょとんとして、なんにもないよ、とへらりと笑ってしまった。こういうとき、愛は教えてくれないのはわかっているから強く言わないようにしている。それは愛樹も同様で、これに関しては訊かない方がよさそうだ。リビングで二人、愛衣とかかっているバラエティ番組を見るけど、あまり面白いと思えなくて、今日のことばかり考える。いつも途中で別れるのに、今日は送ってくれた神崎君。正直、勘違いしそうになった。自惚れたいと思ってしまった。そんなことを考えるほど、、仲が良いとは思えない。
 いつか、同級生に言われたことがある。


『寺崎さんといても、面白くないよね』


 面白いってなんだろう。私は他人から見ると大人しい部類らしい。穏やかで、自己主張の少ない子。それが、他人からの私の印象だ。私は友人が面白いから一緒にいるんじゃなくて、友人といて楽しいから、一緒にいる。神崎君といて、私は緊張しているが、楽しくないと思ったことはない。神崎君は面白くないと思っていたかな。それなら、とても悪いことをしたと思う。でも、神崎君が誘ってくれたから、ちょっとくらい、夢を見たい。いつの間にかCMに入っていたテレビは見ていなくて、愛衣に消された。ソファが音を立て、愛衣がみじろぐ気配がする。どうしたの? そう訊ねると、愛衣は少しの間の後、口を開いた。


「お姉ちゃんって、好きな人いるの?」


 思ってもいない質問に、ぽかんと抜け面で愛衣を見る。緊張したような愛の表情に、本気で聞いているのが伝わってくる。別に、離れていかないのに。好きな人がいようと、恋人が出ようと、結婚しようと、本当は従姉だけど、愛衣と愛樹の姉であることには変わりないのだから。くすりと笑って愛衣を抱きしめ、肩口に頭を押し付ける。後頭部を撫でつける手は出来る限り優しく。こうすると、愛衣も愛樹も大人しくなる。大丈夫、大丈夫。私はあなたたちの姉だから。


「何してるの? 二人とも」


 二人で抱き合っていると、風呂上りの愛樹が呆れたように立っていた。冷蔵庫から水を取り出して飲む姿に微笑う。忘れそうになるが、妹弟はまだ中学生だ。甘えたいときもあるだろう。ただでさえ、この子らの両親は仕事人間で、なかなか帰ってこないのだから。まあ、叔母さんはたまに帰ってくるけど厳しい人だし。


「愛衣姉。寝るなら部屋行こう?」

 愛はぐずることはく、私から離れる。撫でられたせいか、少し眠そうだ。三人連れだって、二階の自室まで行く。愛衣は愛樹に支えられながら、部屋の前に来る。そのまま愛機にベットまで運んでもらうだろうから心配はない。

「愛樹。話がある」

「ん? いいよ。姉さん、おやすみ」

「お姉ちゃん、おやすみ」

「おやすみ、二人とも」


 部屋に入る二人を見送り、私も部屋に入る。甘えたな愛衣は久しぶりだ。二人とも、私が部活に入ってからは前より甘えてくる回数が少なくなったように思う。もう少し、お姉さん面したいんだけどなあ。お年頃かな。でも、甘えられるのは嫌じゃない。妹に甘えられたし、何より神崎君に送ってもらえた。今日はいいことあったなあ。今日の睡眠がぐっすりだったのは言うまでもない。


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