隠して恋情
その優しさが
1/1
妹弟の朝は早い。妹弟の通っている学校の陸上部は強豪らしく、身体を動かす程度の朝練があると言っていた。私もそれに合わせて弁当を作る。元々家事は好きだから苦ではない。遅刻もしないしお昼も安くつく。まさに三文の特である。
「お姉ちゃんおはよう」
「おはよう、姉さん」
弁当箱におかず詰める前後、身支度を終えた妹弟が降りてくるのが常だ。それに腹を立てるわけでもなく、通常だと思うのは、家事があまり得意でない両親の下に産まれたからだろう。小学校高学年にはすでに台所に立っていた記憶がある。
朝ご飯を三人で食べ、朝練に行く二人を見送ってからが私の時間だ。洗い物を済ませて学校へ行くために着替える。そして時間になるまでぼけっとしておきたい。存外に、私はゆっくりしていたいのだ。寝ていたい、というのもあながち間違いじゃないかもしれない。けれど、あとに回すと面倒だから先にする。だから、学校もそれなりに早く行く。学校に着いて教室に行くと、友人はいる。電車の加減だと言っていた。
「おはよう」
「はよ」
友人は本を読んでいた。本を閉じ、私と話す体勢を取る。その間に私は自席に鞄を置いて、友人の前の席に座る。これも日課。友人と話すことは様々だ。見たドラマ、日常生活、部活などなど。神崎君の時とは大違い。話すことがなくても、友人となら互いに本を読んでいても苦ではない。それがくだらないことでも話せる友情、何を話せばいいかわからない恋情との差なのだろう。幼いから、自分に何もないから、どう接すればいいかわからないから、何も話せない。友人に言わせたら、小学生のほうが進んでいるらしい。今どきの小学生がませている情報はいらないと思う。私のスピードでいい、と思うも、競争率の高い神崎君だから、誰と付き合うかなんてわからない。その時はその時、失恋パーティーでも友人とする予定だ。今はまだ、誰とも付き合っていないからそんなことはしないけれども。
「ほかの子みたいに貪欲にいけばいいのに」友人は消極的な私に言う。ただ、求めるのが苦手だから、今のままでもいいかなって思ってしまう。今の関係を壊したくない。そうは思っても根底にあるのはそんな楽観的な思考だ。友人もそれを知っているからきつくは言わない。
「今日は何かしらね」
「さあ。何でも楽しいよ」
今日は部活の日。何を作るかは放課後にわかる。部長と先生が決めるから、副部長以下は当日の部活まで知らされないのだ。文化祭の模擬店も試作もあの日一日で終わったから、文化祭の準備期間までは通常通りになる。十月の下旬にあるから、もう少ししたら準備期間になる。そうしたら部活とクラスとでてんやわんやであるが、それすらも良い思い出に変わるのだ。私は、だけど。苦手な子は良い思い出にならないだろうが、みんなで何かを行うと言うことは存外に楽しいことを知ってほしいと思う。
我がクラス、たこ焼き屋の準備は買い出しくらいで、あとは当日に生地を作り焼くだけだ。焼く調理班は料理の出来る子とか、やったことがある子が中心になる。私も家でやったことがあるから調理班だ。まあ、友人も調理班だから、料理部所属も多いに関係しているだろう。クラスは屋台だから、外で販売するから前日にテントを組み立て、当日に立ち上げることになっている。部活も前日に準備だが、机を動かしてクロスを引くだけだから事らも簡単に終わる。前日にすることなんて、だいたいこんなものだ。
昼休み、何気なしに廊下に目をやると、やたらと男女の組み合わせを見るようになった。同級生であったり先輩であったり。それこそ、後輩も。友人は見当がついているようで、私を「なんでわからないの?」という目で見てくる。仕方ないじゃないか。興味ないんだから。私の性格を熟知してるであろう友人は、教えてくれる。
「文化祭効果よ。好きな人とまわりたいでしょ」
まあ、あんた興味ないだろうけど。友人はそう続けた。
興味がないのは合っている。偶然、神崎君とまわれることになったけど、正直言って、無理ならそれでよかったりする。どうせ、妹弟とまわることになるのだから。
なあんて、思っている時期も私にもありました。
「なんでお姉ちゃんの文化祭に行けないのさ!」
苛立たち気に愛衣は言った。
「部活が入ったからだろ」
冷静に返すのは愛樹だ。文化祭に来る予定だったのだけど、突然、合宿が始まるそうだ。なんでも、大会が十月末にから十一月初旬にかけてあるようで、その合宿をするらしい。二人は分笠に行けないことに怒っているのかと訊いたら、それは違うと返ってくる。多少はあっているが、大きな原因はそれではないと言う。ではなんだ、と首をかしげると、私をこの家に一人にしたくないと言い出した。何をそんなに心配しているのかわからないけど、二人は私を慕ってくれているから心配してくれるのだとわかる。その優しさが嬉しいことを知っているのかな。知らないなら気付かないでいい。ありのまま、過ごしたいから。