隠して恋情
花火の熱情
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 神崎君と穂積君と会った場所から移動して、今いる場所は花火を見るための穴場である。ちらりほらり人はいるが、祭り会場よりは目立たないと思う。案内のため、私は先を歩いていた。


「ここ、けっこう穴場なんだよ。ほとんど人がいないでしょ?」


 振り返り様に言ったら、神崎君と穂積君が視線を逸らした。わからなくて首を傾げると「姉さんはわからなくていい」と愛樹が言う。私としてはそうもいかないのだけど、神崎君も穂積君も大丈夫の一言だから何も言えない。
 花火を見るために移動したから花火を見たいのが、穂積君と妹弟が少し離れた場所で話し出してしまった。


「神崎君はあの子たちになんて言われたの?」

「え?」

「体育祭のとき」

「ああ。先輩が気にするような、大したことじゃありませんよ」

「そうなの?」

「そうです。それより、そろそろ花火が上がりますよ」

「じゃあ呼ぼうか。愛衣! 愛樹! そろそろ花火が始まるよ」


 穂積君のことを訊かれたけど、元々きょうだいで見に来たからいいかなと思った。神崎君は目を開いて驚いたけど、先輩らしいと言われてしまって、どういう反応をしていいのかわからない。困ってしまって笑って流したら肩を竦められる。それによって気づいた距離の近さ。改めてどきどきしてくる。――だめだ。意識し始めると緊張してきた。どうしてたか忘れるくらい、いっぱいいっぱいになってくる。


「行こう。お姉ちゃん、愛樹」

「え? 神崎君と穂積君は?」

「……姉さんがそう言うなら……」


 シスコンだとは知っている。両親が忙しいから私に懐いてくれているのも知っている。ただ、ここまでだとは思っていなかった。そういえば「お姉ちゃんは私たちが守るもん」とか「姉さんの付き合う相手は俺たちが見極めるんで」とか言ってたっけ。さっきは混乱でよくわからなかったけど、いったいあの二人に何があったんだろう。考えてもわからないから考えないけど、気にしとこうとは思う。二人が言ってくれなきゃ意味無いけど。
 もう少し進んで柵のあるところまで歩く。この場所には池があって、転落防止のために柵があるのだ。腕時計を見ると始まる時間になった。花火の笛の音が鳴る。見上げると星の目立たない夜空に花火が上がる。開かれた花火は静かにその姿を消していき、あるいは消える前に新しい花を咲かせた。次々と上がる花火に険悪さも忘れ、私たちは見入っていた。私の左隣には愛衣がいて、右隣には神崎君がいる。妹弟には悪いが好きな人神崎君と見る花火はいつもよりも輝いて見えた。
 やがて夜空に浮かぶ花火は終わりを告げる。余韻の残す私たちに穂積君が提案した。


「線香花火しないか?」

「いいね! やりたい!」


 それに同意したのは私、寺崎愛弥。妹弟は案の定、私がするなら、というものだ。神崎君はどうするのか見たら、穂積君と話していた。今日、仲間外れが多い気がする。妹弟と穂積君――これは神崎君といれたからいいけど――だったり、穂積君と神崎君だったり。話終わった二人は私たちのところに来て神崎君は「すみません」と、穂積君は「わりぃわりぃ」と謝る。どこで線香花火をしようかと話になって、最初は渋っていた妹弟も折れて寺崎家の家ですることになった。庭では難しいが、ベランダがそれなりに広いから提供することになったのだ。途中、スーパーで線香花火を買って帰路に着く。とりあえず靴は靴底を合わせて広告の紙で靴を巻いてベランダに行ってもらう。私はみんながつまめるものを作るために台所に行く。四人に言ったら、神崎君が手伝ってくれることになった。三人に準備をしてもらうのだが、それは私と神崎君以外、料理ができないからだ。隣に好きな人がいるというこの状況は嬉しいと思ってもいいのだろうか。嫌われていないと自惚れそうになるのは私は単純なのだろうか。


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