隠して恋情
夏祭り
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家庭科室で神崎君と穂積君が謎な会話をして、夏休みも後半に差し掛かった。毎年八月下旬に行われる近所の祭り。妹弟と行くのは決まっているが、着ていく服は浴衣と妹弟によって決まっていた。忙しい母から一人で着付けをできるようにと教わっているからできるにはできる。しかし、だ。夏祭りだから浴衣を着るのはわかるが、私も着るとかわけがわからない。普段着でいいじゃない。反論はしたが、聞き入ってもらえず、浴衣を着ることは避けられなかった。諦めて妹弟の浴衣を着付けして私も浴衣を着る。着崩れを気にして家を出るちょっと前に終わるようにしたから巾着を持って出た。
この夏祭り。わりと大型で人が多い。団体さんもいるから迷子が続出するから迷子保護所は定員オーバーだ。だから迷子にならないようにしなければならない。
愛樹に手を繋がれて前を愛衣が歩く。屋台でご飯物を買ったり遊んだり、わりと楽しくしていた。最後には花火が上がるから、早々に見易い場所に移動するとき、見知った顔がぞろぞろと歩いていた。私たちと彼らはまさか会うなんて思わなくて、お互いに「あ」と言って立ち止まった。
「こんばんは、先輩」
「よう、寺崎」
「こ、こんばんは。来てたんだね、神崎君に穂積君……」
妹弟は神崎君と体育祭の時に不穏になって以来で、穂積君とは初めて会う。体育祭の時と同じになるかな。
「穂積に誘われて」
「そうなんだ。穂積君が腐れ縁って言ってたけど、仲良いんだね」
「ま、ご近所だしな。そっちの二人は?」
妹弟を紹介し、穂積君を紹介する。順番なんて適当だ。片や妹弟、片や同級生。上下関係を気にする場面ではない。にこにこと笑う愛樹に寒気を感じた。私たちキョーダイはわけもなく笑うことは少ない。それなのに愛樹が笑い、愛衣は警戒した様子で私の腕に抱きつく。神崎君は目に見えて不機嫌になって、穂積君は何も読めない笑みを浮かべる。ぎゅっと抱きつく力がさらにこもった。なんでこんなに力を入れらているのかわからないが、不安は消してやりたい。整えた髪を避けながら頭を撫でる。
「お姉ちゃんは私たちが守るもん」
「愛衣?」
「姉さんの付き合う相手は俺たちが見極めるんで」
「愛樹?」
とりあえず、何がしたいのかわからない。守るとか見極めるとか、どういう意味? 神崎君と穂積君もきょとんとしている。そして、周囲から見られている。はたから見たら修羅場なこの光景から出るならどうすればいいだろう。……やっぱり――
「移動かな」
「お姉ちゃん?」
「姉さん、花火を見に行くの?」
あ、そっか。花火のために移動する時に会ったんだった。
「花火見に行くんだけど……二人も来る?」
ぽかんとした顔が、面白いなと思った。