隠して恋情
あなたは知らなくていい
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 知らないでいいことがある。私の場合、他人が知らないでいいことは気持ち。神崎君を好きなことは知らなくていい。ドキドキしても、嬉しくなっても、秘密にするの。だって、恋人になってほしいわけじゃない。恋をしていると知ってほしくない。構う理由が恋だなんて、気づいてほしくない。だから隠す。知らないふりをする。この恋心を。誰も知らない、私だけの秘密。その秘密を知ってしまった人物がいる。隣のクラスの穂積君。穂積君は女ったらしで有名で、学内にとどまらず、学外にまで及んでいるとか。噂だからよくは知らないし、なぜバレたのかわからないくらいには知らない人だ。そして私はよくわからないが今、穂積君といる。


「なんで私は穂積君といるの?」

「俺が君と話してみたかったから」


 ふうん。と気の無い返事をする。私は穂積君と話すこと無いんだけどな。


「寺崎はなんであいつが好きなんだ?」

「えー。言わなきゃだめ?」

「言えよ。知りてぇし」

「なんで?」

「直とは腐れ縁でさ。あいつを好きって奴はいたが、あんたみたいな奴はいなかった」


 私みたいやつ? おくびにも出さないこと?
 訝しげに穂積君を見遣ると肩を竦めていた。どういうことか答えてくれそうにない。駆け引きって苦手なんだけどな。


「穂積君ってどこまで知ってるの?」

「あんたが直を好き。だけど恋愛感情からかわいがっているわけではないところ。あと、体育祭のときに下に弟と妹がいるのを知ったな。しかもシスコン」

「最後は余計。……神崎君への気持ちは全部知ってるってことか。どうして気づいたの? 誰も気づかないのに」

「そりゃお前、見てたからに決まってるだろ」


 勘違いしそうになる言葉を穂積君は言う。こうして女性を落としたのだろうか。そう考えると女性って単純なんだと思う。友人から男性は単純と聞いたが、男性では無いからわからない。
 そう考えていたら、穂積君が思いのほか近い場所にいた。机一個くらいの距離が半分ほどになっていたのだ。妹弟で慣れている私だが、さすがに家族以外にこの距離に来られると身構えてしまう。逃げては負けだと、じっと穂積君を見る。だんだんと近づいてきて、あと数センチもしたらキスをするくらい近い。――寸前で退こう。決意したとき、後ろの扉ががらっと開いた。密会してるわけじゃないと弁明しようと振り返り、息を飲んだ。そこにいたのは神崎君だった。動揺したような表情を浮かべた神崎君は「失礼しました、先輩」と言って出ていく。私も追いかけようと立ち上がるが、動揺しているらしく、足に力が入らない。穂積君が立ち上がり、私の肩を下に押して座らせる。


「俺が言って説明してくる。お前は待ってな」

「でも……!」

「動揺で顔色わりぃんだよ、お前」


 うぐっと押し黙るしかない。足が動かなかったんだ。追いかけられるはずがない。穂積君の言う通り、ここで待っている方がいいのだろう。


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