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 プレゼント

思い立ってから行動まで、
今までの俺からは考えられないほど速かった。


「ありがとうございましたー!」

店員の元気な声を背中で受けて、買い出しの荷物とは別に今買ったものを左腕にしっかりもって気合いを入れる。

喜んでくれるかな。
亜麻色の髪の彼女を想って、宿へと歩き出した。



「あ、ルークおかえりー。買い出しありがとね」

宿に戻って一番最初に出迎えてくれたのはアニスだった。奥で本を読んでいたジェイドも俺に気づいて、お疲れ様ですと笑う。

「おう。買ったやつとお釣りここに置いとくな。
あ、アニス、まだ夕食の準備まで時間あるだろ?
厨房借りてもいいか?」

「いーけど…なに作るの、ていうか、ルーク1人で平気なわけ?
アニスちゃんがついててあげよっか?」

ショートケーキ1つでいいよ、とお得意の笑みを浮かべるアニス。ショートケーキ1つだろうがなんだろうが、アニスにはついていてもらった方が絶対に安心だとは思うけれど。

「わかりやすいレシピも買ったし1人で頑張ってみるよ。
ありがとな、アニス」

「そお?ま、がんばってねルーク(ちぇっ、ショートケーキ食べたかったのに)」

なんだか不満そうなアニスに見送られ、厨房へと急いだ。



「うし。やるぞ」

レシピを開き、材料を確認。
旅を始めたばかりの頃、料理なんてまるでしたこともない俺にティアが教えてくれた事を思い出しながら、慣れない手つきでリンゴの皮を剥く。

(左手は猫の手、だったっけな。
あ、俺は右手か)

なんだかんだいいながら、教えられたことを意外としっかり覚えている自分の記憶力に、ときどき感謝しながら、数時間。


「でき、た…」

かなり時間もかかったし、何回か失敗したし、味見のしすぎでちゃんと美味しくできているか、わからないけれど
とりあえず、できた。


レシピと一緒に買った瓶に詰めて、あいつの好きそうな可愛らしい箱にいれる。
ラッピング用のリボンが付いていたけれど、不器用な俺には出来なかった。

箱をじっと見つめて、リボンつけなくても大丈夫だろ、なんて思っていると

「ルークっ♪上手くできた?」

ひょこっと、厨房の入口からアニスが顔を出した。

「うん、出来た。あ、ごめんな待たせて。もう夕食作らなきゃだろ?」

「へーきへーき!
ところでルーク、それラッピングしてあげるよ。どーせ出来なかったんでしょ?」

「…不器用で悪かったな」


ムスっとしながら言う俺に、アニスはなにかに気づいたようにニヤニヤと笑いながら、箱を綺麗にラッピングしていく。完成に近づくにつれ、売り物として並んでいてもなにも違和感ないんじゃないかと思った。…さすが、アニス。

「…はい、できた♪
じゃあ、あたしは夕飯の準備しちゃうから。ルークはがんばって渡してきてね☆
ティアは部屋だよ!」

ああ、やっぱり気付かれてる。
ありがとうとだけ伝え、ちょっとだけ熱くなった頬を隠すようにして、ティアの部屋へと向かう。
あとでラッピングのお礼にショートケーキでも奢ってやろうかな、なんて思いながら。



深呼吸してドアをノックすると、どうぞと綺麗な声が聞こえた。

「あら、ルーク。どうしたの?」

亜麻色の綺麗な髪がさらりと流れて
思わず見惚れてしまう。

「…ルーク?」

「あ、…あのさ、ティアに渡したいものがあって…」

「渡したいもの?」

首をかしげるティアの手のひらの上に、さっき作ったものが入った箱をのせる。
開けてもいいかしら、とふんわり微笑まれて、直視できなくて目線が泳いだまま頷いた。

リボンに手をかけて、一瞬躊躇ったようにも見えたが(たぶんラッピングが可愛いから)するするとほどいて、箱を開ける。

「あ…ルーク、これ…!」

ティアは中に入っていた瓶を見て、驚いたように声をあげた。

「リンゴジャム…ルークが、作ってくれたの?」

うん、とやっぱり直視できないまま頷く。

まだ俺の髪が長かった頃、
きっとそんなに意識はしていなかったと思うのだけれど
朝食にパンが出るといつもリンゴジャムをぬっていたし、リンゴはティアの好きなものの1つだと、頭にインプットされていた。


「今朝、リンゴジャムがなくなったって言ってただろ?
だから、日頃のお礼にというか、なんていうか…。
一番最初に俺に料理を教えてくれたのティアだったし、教えてもらったことを思い出しながら1人でできっかなーって…ちゃんと美味しく出来てるか、わかんねえけど…」

なんかこういうの、すげー恥ずかしい。
とりあえず渡せたことに安堵のため息を吐くと、ティアは瓶のふたを開け、手袋をはずした手で少しだけ掬って、舐めた。

「美味しい…。ちゃんと美味しく出来てるわ、ルーク。
ありがとう、とても嬉しいわ」

最近ときどき見せてくれるようになった満面の笑みを浮かべて、ティアは言う。でも、ほんの少し砂糖が多いかしら、と付け足して。

ティアのこと考えながら作ってたら
うっかり砂糖の分量を間違えたなんて
絶対に、言えるわけがない。



fin

↓おまけ


「甘い」
「甘いですね〜」
「甘いな」
「甘甘ですわ」

夕食ができたとミュウが呼びに来たので、ティアと共に食堂にいくと
鍋に残ったジャムをなめて、俺を見ながらニヤニヤしている仲間たちがいて。
すぐにとりあげてさっさと洗った。

翌朝
朝食のパンに例のジャムをぬって、嬉しそうに食べているティアがいたとか。



────
シムルークが
頑張ってジャムを作り、
ティアにプレゼントしてるのがあまりにも可愛かったので…
妄想が(・∀・)←

左手は猫の手は
私は小さい頃にお母さんに教わりました
ティアはやっぱヴァンに教えてもらって、それをそのままルークに伝授、みたいなw

ここまで読んでくださってありがとうございます!

110321 べべ



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