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 ああ。イライラする!あの横暴バ会長め!

 オレはどうしようもない苛立ちを抱えたまま寮への帰り道を歩いていた。
 何の因果かオレはこの全寮制男子高でbQの座に座っていた。つまりは生徒会の副会長である。
 自分で言うのもなんだが、母親がイギリス人と日本人のハーフでオレはクオーターであるために、外見が整っている。
 よくおとぎ話に出てくる王子様みたいだと言われる。不本意だが『王子』と言うあだ名もついていた。これが共学であれば女にもてもてでバラ色の学生生活を送れるのだが、ここはしょせん、男子高。さらに全寮制。別の薔薇が咲き乱れていた。つまりはバイだのホモだのの宝庫だと言うわけだ。
 そして、跳び抜けた容姿を持つオレは当然、ケツやらチンコやらを狙われる。
 自分の保身のために完全武装の笑顔仮面をかぶり、誰に対しても誠実でありながらも一線をひいたお付き合いという微妙な匙加減を上手に保っていた。
 その成果もあってオレは観賞用と見なされることが大半になっていた。
 そして、そのネコ被りの成果でほとんど人気投票のような生徒会役員選出においてbQになってしまい、やりたくもない役員になっているという訳である。
 まあそれは仕方ないと受け入れよう。だが、問題はオレを超えて人気のあるという御仁である。
 生徒会長…またの名を絶倫オレ様性徒会長。仕事もせずに生徒会室にセフレを連れ込んで腰を振っている。
 もちろん相手も男…それも日替わり定食である。
 見たくもない気持ち悪い情事。

 オレの今の苛立ちもそれを見てしまったからである。
 冷やかにキレて注意したオレに対して、野郎は寝ぼけた事を抜かしやがった。

『焼餅か?』

 その時、オレの中でブチっと何かが切れる音がした。
 気が付いたら変態2人を床に沈めていた。
 裸のままピクピクいっているチワワに、ケダモノ。

 情けとばかりに2人に上着をかけて生徒会室を跳び出した。

 ズンズンと音を立たせながら、オレは道を歩く。その時、足元に小さな生き物がいることに気がついて、踏もうとしていた足をとめた。
 その生き物をジッと見る。で〜んでんむしむしの…かたつむりである。
 
 幼児なら喜んで摘まんでアジサイの葉っぱに乗せたりするだろう。だが、今のオレにそんな優しさは持ち合わせてない。
 そういえば、かたつむりと言えばナメクジ。ナメクジといえば何を思い起こすだろう。

「塩…」

 そう。小学生になれば一度はやったことのあるアレだ。塩をぶっかけて縮まるのを見ることだ。
 幼稚なことだが、今のオレはそんなくだらないことでもして、憂さ晴らしをしたい!
 捕まえて寮でやってやる。
 そう思って憐れな未来のかたつむりを捕まえた。

 だが、その時。彼?にとって救いの声が舞い降りた。

「あ!副会長様だ!」

「王子さま〜。さようなら〜」

 と、オレの下僕…訂正、親衛隊が声をかけてくる。
 瞬時にオレはネコを10匹ほど背後にひっつかせ完全武装する。

「みなさん、さようなら。気を付けて帰りなさいね」
 
 笑顔部隊であるネコA〜Dが総動員してオレの顔に笑顔の仮面を装着させる。
 そして言葉部隊のネコE〜Gが穏やかな口調の挨拶のカンペを寄こしてくる。
 止めとしてネコH〜Jがオレの背後から神々しいライトを照らしていた。

 これで眉目秀麗・秀外恵中・公明正大・沈着冷静な副会長の出来上がりだ。

 そんなオレに声をかけられて顔を真っ赤にしている。
 お前らの股間に本当に男のシンボルが付いているのかと詰め寄りたいが、そんなオレをネコD,G,Jが止めに入ってくる。

「あ、かたつむり。どうされたのですか?」

 オレが捕まえてたかたつむりに気が付いたようで聞いてくる。

 チッとネコに押さえられているオレが舌打ちしているが、他のネコが素早く次の言葉を促がしてきた。

「こんなところにいたら踏まれてしまうでしょう。だからそこのアジサイまで連れていこうと思いまして」

 にっこり。ネコがオレの口元を上げてくる。
 それによってますます彼らの顔がリンゴみたいに真っ赤染まる。

「さすがです、王子さま。あ、僕たちがやります」

 そう言って手を差し出してくるチワワたちに、仕方なくオレはうっぷん晴らしのネタを渡すことにした。

 この出来事がオレの受難の始まりだったのだが、この時は何も分かっていなかったのである。
 

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