奇抜な格好の二人組


「瀬亜ー、急がないと購買売り切れるよ?」
「あ、今行きま…行く!」

 四限目が終わり、ノートに写し切れていない板書を必死に書き込んでいるところで、クラスメイトにそう急かされた。
 建て替えたばかりだというバニラ色の新校舎はとても鮮やかで、教室の白いカーテンがよく似合う。

「おーそーいーぞー!」

 いつも数分で売り切れてしまうらしい一階の購買部を案じて、隣の席きっかけで友達になった少女、花珠リコは扉の前で足踏みをした。

「馬鹿、せっかち過ぎるだろお前。ゆっくりいいからね、瀬亜」
「はい…すみませ」
「敬語いらん」
「ごめん」

 反射的に訂正した瀬亜に困ったように笑うのは、好青年という言葉がしっくりくる見た目のミヅキ(苗字は覚えていない)。
 彼はリコの幼馴染で、転入してきたばかりの瀬亜に世話を焼きたがった彼女の紹介で関わるようになった。

 裏表のない眩しいリコと、それを一歩後ろで見守るバランスの取れた二人組の存在は、突然放り込まれたコミュニティに戸惑う瀬亜には居心地が良くて。



「敬語が抜けないってのもヘンな癖よね」
「はは…。親の事情で転勤が多かったから、身に付いちゃったのかも」
「でも同い年で敬語なんてそれこそ慣れないし、距離取られてるみたいで苦手だわ」

 無事購入した明太子パンを片手に、瀬亜とミヅキの先頭に立って廊下を歩くリコがそう言った。

 潜入調査を初めて早2週間。
 校舎にも、高専以外の同級生にも慣れた頃だけれど、未だ呪霊についての情報は得られていない。

 リコ達と打ち解けたその日にそういう類の探りは入れてみたけれど、これと言って呪いが関係しそうな証拠は見つからなかった。
 しかし問題なのは、報告書にあれだけの自殺報告がありながら、虐めの話題すら上がらなかったことだ。

「ていうかあんた達、今日から暫く一緒に帰ってくんない?」
「は?」

 爪を眺めながら呟いたリコに、ミヅキが怪訝そうに訊き返す。

「またストーカーが居るっぽいのよ。昨日も塾の帰りに待ち伏せされてて」
「まじか。お前これで何回目だよ」
「そんなに頻繁に…同じ人?」

 心配そうに尋ねる瀬亜に手をひらりと振ったリコは、慣れているのか落ち着いた顔で微笑んだ。

「心配しないでも大丈夫よ。警察には言ってるし、そういう時は身内に迎えに来てもらうようにしてるから。とりあえず応急処置で1人にならないようにしたいなって」

 リコがお願い、と両手をパチンと鳴らして頭を下げる。
 そこまでしなくても友人の身が心配だ。「もちろんだよ」と、ぶんぶんと頷いた瀬亜にリコはホッとしたように肩の力を抜いた。


:::::::

「あ、見て瀬亜、次あっちのお店行こう!最近出来たカフェで、めっちゃ美味いチーズケーキあるらしいわよ!」
「げ、まだ帰らねーの?」

 せっかく3人揃うなら帰りに寄り道をしよう――と言い出したのはリコで、勢いに流され駅近くのショッピング通りに連れ出された瀬亜達は、彼女の付添いにあんぐりと口を開けていた。

 もういくつものコスメショップを冷やかしたし、所謂プチブランドの洋服店も見て回ったが、まさかここまでどっぷりと時間を費やすとは…。
 嬉々として小さくなる背中を眺める瀬亜に、隣から気遣う声が聞こえる。

「ごめんな、瀬亜。あいつ買い物長いんだよ」
「あ、ううん…。何だか楽しそうだし、私も嬉しい。本当は少なからず怖い思いしてる筈だから、落ち込んでないかなって思ってたんだけど」

 そう言った瀬亜にミヅキは関心したような、それでいて温かい瞳を向けた。

「瀬亜ってホント優しいよな」
「…へ?そうかな」
「そうだよ。まだちょっとしか経ってないけど、瀬亜といると俺もリコも落ち着く」
「…」

 突然の褒め言葉に耐性のない顔が熱くなる。
 普段通りの顔をしていたミヅキも瀬亜の様子に気付くとみるみる焦った表情になって、照れ臭そうに早口になった。

「そんな恥ずかしがられたら感染るんだけど」
「ごめん…」
「ちょっと遅いわよ!早く来なさいよ」

 店の扉の前で振り返るリコが催促してくる。
 切り替えるため歩みを進めようとした瀬亜は、同じく店前に立つ長身2人の影にハッと息を止めた。

 嫌でも目立つ白髪と黒の長髪。美形の匂いをぷんぷんと漂わせる若者に、カフェを横切る通行人が無心に目で追っている。

 あの姿は…。

「――ア?」
「おや、瀬亜じゃないか。偶然だね」
「五条さん、夏油さん…どうして此処に」

 そこまで言って店の看板を見た瀬亜は、納得したように肩を竦める。隣で奇抜な格好の二人に驚くミヅキと目が合うと、そこへ割り入るようにリコが飛び込んできた。

「え、誰このイケメン。瀬亜の知り合い!?」


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