鮮やかなドレスの裾をたまに踏んでは謝って、誰かにぶつかっては睨みつけられ、身の狭い思いをしながらリヴァイが揺らす黒い燕の尾状のテールを追う。人混みから辛うじて見えるそれにやっと辿り着いた時には、髪も少し乱れてしまっていた。

「…協力って、何ですか…話の脈が見えなかったんですけど」

人気の少ない所で立ち止まったリヴァイに、やっと尋ねる隙が出来たと詰め寄る。

「見せつけだ。調査兵団の幹部と名門貴族のアンドレア家が親しいと思い込ませたら、いい宣伝になるだろう…」

淡々と、まるで誰かの言葉をなぞるように告げたリヴァイは、その鋭い瞳でサヤを見下ろした。
なるほど、と頷きかけたサヤも、その視線に動きが止まる。さっきの口付けの事を思い出した。あれがいくら宣伝の為だろうと、緊張しない訳がないのだ。それにリヴァイが嫌々やっていたのだと確信してしまったことで、傷ついている自分がいる。

無意識にリヴァイに触れられた手をもう片方の手で握りしめれば、男の視線もそれを追った。

「…手に接吻なんて慣れてるだろうが」

その言葉に曝け出されたサヤの肩が上がる。首を竦めるようにして見上げてくるサヤに、リヴァイは体が疼くのを自覚していた。馬鹿馬鹿しい。舌打ちと供に視線を庭園へ向ける。

「上司に接吻なんて、慣れてると思いますか……」

サヤは至極真面目そうに呟いた。

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比較的賑やかな曲調の音楽に包まれて歩くその男の姿は、遠目に見ても清麗で、周りの視線を集めているのは言うまでもなかった。

「…おい、何突っ立ってやがる。はぐれたいのか」
「…」

しかし振り向いたその姿は明らかに不機嫌で、とても見惚れていられる様子ではない。鈍いサヤに嫌気がさしたのか眉間に皺を寄せて立ち止まるリヴァイに、サヤは持っていた疑問を投げかけた。

「あの、どこに行くんですか。部屋はそっちの方向にはありません」
「まあ、そうだろうな」
「…?兵長…」

上へと上がる階段ではなく、心なしかダンスを踊る男女の空間に向かっているように見えるリヴァイに、サヤの足が止まる。

「え、まさか……」

踊る気なのだろうか。そう呆然と推測して呟くサヤに、リヴァイの眉間の皺はより深くなった。だがそれを認めることも無く首を左右に振る。ダンス苦手です、と訴えれば半ば呆れたような視線が降ってきた。

「勘違いするな。お前と踊る気分なんざ持ち合わせてねぇ…」
「…」

それはそれで傷付いてしまう。

「じゃあ、なんなんでしょうか」

エルヴィンの要望通り自分を部屋に送り届ければ良かったのに。そう続けようとした言葉は、飛び込んだねちこい声に先を越された。

「久々ですなぁ、アンドレア嬢」
「―――」



魔法が融けたシンデレラ

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