Novel
美しいひと 1

「渉、ちっととめて」
TELいれてくんわ。

湘南。
そろそろ時刻は午後22時をまわる。漆黒の夜。湘南という言葉のイメージと相反して、ここはまだ、山の近く。この時間、海沿いを暴走りぬけても、真っくらに押し黙ったような海にしか出会えない。
もうすぐ、暴走り続けていると耳がちぎれそうになる季節がやってくる。八尋はすでに瀟洒なジャケットを着込み防寒にはげむが、千冬はそれでも、平気な顔で、特攻服一枚でバイクのリアシートに乗る。

千冬の頼み通り、八尋は、紺蒼のフォアを電話ボックスの前にとめた。リアシートから身軽にとびおりた千冬が、電話ボックスに入ってゆく。

ポケットから引っ張りだした硬貨を何枚か投入し、手慣れた様子で番号をおしている。電話機に肘をつき、千冬はなにやら語りはじめたようだ。

たばこに火をつけ、八尋はその後ろ姿を見守っている。

八尋に背を向け電話の向こうに語りかけている千冬が、どんな表情をしているのか、ここからではわからない。

五分はすぎただろうか。十分には満たぬ時間をつぶすため、八尋がたばこをふかしていると、電話ボックスから千冬が出てきた。

「もーいーのか?」
「ああ、悪かったな」

千冬が誰に電話していたか。
笑みをかみころした顔でリアシートにまたがった千冬を見ていると、いちいちたずねなくてもわかる。

バイクを発進させると、背後で千冬が、大声でぼやき始めた。

「それにしてもよー」
「あ?」

八尋が聞き返す。
千冬が、やけっぱちの大声でさけんだ。

「もー寝るってよー、はやすぎねー!?」
まだ10時なってねーぜ?!

八尋が、至極愉快そうな気色をにじませ、軽く笑った。

「疲れてんだろーよ?」
「にしてもよー、はぇぇだろーよー」
「起こしたのか」
「ちっと怒ってたな・・・・・・すぐ機嫌なおしたけどよ」
しゃべりすぎたという顔をした千冬は、そのまま黙った。

八尋も、それ以上は聞かない。

八尋は知っている。

千冬と、千冬の彼女のことを。
かけがえのない相棒と、その大切な女のことを。




夏休みのはじまりだが、あすかにとると、まるで休みではない。むしろ、働きどきだ。
父が病で亡くなったあと、癌と認知症を併発させた祖母も看取った。その後、母も過労で倒れ、病院にて療養中。自然、あすかが、父の遺した酒屋を切り盛りすることとなった。高校三年生のあすか。横浜の公立大が第一志望だったけれど、日々の仕事におわれ、この夏も受験勉強どころではない。まあ、大学は、いつだって行ける。とりあえず高校は卒業しておこうと思う。

これまでもあすかは家の手伝いをこなしていたけれど、母までもが倒れてから、それらはあくまで手伝いにすぎなかったことを思い知らされた。ひとくせもふたくせもある客や取引先と格闘して、次から次へと仕事を覚えてゆく日々。そのあいまに、入院中の母の元へ通う。酒は年齢的にも体質的にも飲めないけれど、それはそれで、客や取引先との会話のきっかけとなるのだ。
女だから、若いから、ガキだから、親にはかなわないから、若いのに美しくもないから、かわいげにも欠けるから。そんなことをいいわけにしたくないけれど、日々せわしなく、目の前のことに負けそうになる日々。
そんな毎日のなかで、あすかには一つの楽しみがあった。


電話の呼び出し音が、仕事を中断する。掃除、発注、問屋や蔵元の営業とのやりとり、補充、伝票打ち込み、接客。それをすべて自分ひとりでこなしているところに、仕事の流れを切る電話。注文はありがたいけれど・・・・・・、と、ありがたさ半分いまいましさ半分で受話器を手に取ると、店の名前をなのったそれは、聞きたかった声だった。

「ランブルスコ一本と、水割り用の水と、みりん。あと千鳥酢、おねがいします」

電話口のくぐもった声は、中性的ともいいがたいが、雑なダミ声でもない。どこか幼さもにじむ、澄んだアルト。つっけんどんな口調だけれど、語尾は丁寧だ。

店をしめて、原付の足下に注文の荷物を慎重に置いた。電話の主の店へむかう。7、8分走れば到着する、それなりににぎわった通りの裏。飲み屋街ではなく、住宅地のなかの病院、公園、書道教室などを通り過ぎて、住宅街の裏側にまがりこんだ裏通りの一番奥。
味のある年季がこもる、なかなか風情を帯びた古い家の一階が、スナックになっている。ありきたりなものだけではなく、ワインや焼酎、日本酒、なんでも楽しめるような店にしてあるようだ。

湿気の多いわき道をつたって、裏口に回り、ノックしたあと、挨拶をする。

「入って」

勝手口の向こう側から、電話と同じ声。澄んだ声がひびいてきた。ちらりとのぞくと、冷たい瞳が、目線だけで挨拶をかわしてきたので、あすかも目礼をおくる。

無造作にむすばれた、ゆるくウェーブのかかった美しいロングヘア。
真っ白な肌。自分の、浅黒く透明感のない肌がはずかしくなる。

そして、おそろしいほど整った、冷たい美貌。

一目みたときから、あすかは、この人は美しいと思った。
そして、この人は、強いと思った。
そして、この人は、まぎれもなく、少年だった。

だぼだぼのトレーナー。いやにきれいな脚をつつむパンツ。無造作な私服が、もちまえの美貌をいっそうひきたてる。

その人は、たばこを口にくわえたまま、けだるく、厨房をかねたカウンターにたっている。

「千冬さん」
お世話になります。

「ああ、そこおいといて」
「ありがとうございます。伝票」
「集金、次でいい?」
「いーですよ?」

ときどき、女優だろうかという美女が店にたっている。それがこのお店のママ。年齢は30代半ばだというのだから、その美しさ、その若さで、こんな大きな美しい子がいるとは。それは、時々店でも話題になっていた。
この美しい少年は、女手一つで育て上げた、一人息子だそうだ。電話口で事務的な会話は以前からかわしていたが、こうしてあすかが配達に足を運ぶようになり、その美しさをこの目で味わったのは、ここ数ヶ月のこと。支払いもきちんと約束通りしてくれるこの店は、繁盛しているようだ。凍り付くような美貌、その美貌からとびだす澄んだ声は、ラフだが、最低限の礼儀を纏った言葉をつむぐ。お互い年齢がかわらないことを察知してから、そのクールな美貌を壁に感じることは徐々になくなり、いつのまにか、取引先と仕入先、その境界をあくまで守りながら、千冬とあすかは、どことなく気軽な会話をかわせるようになっていた。

このスナックの壁には、特攻服が吊られている。ゴリゴリに施された分厚い刺繍には、ついつい視線がひきよせられてしまう。湘南という土地柄、見慣れているつもりだ。同じ中学にも、こういうものをきている男子はずいぶんいた。今通っている高校には皆無ではあるが。

「気になる?」
「あ、すみません」
「別に悪いことしてねーだろ」

千冬が、くわえていたたばこを、ガラスの灰皿に押しつけた。

「こーいうのかけとくとよ、めんどくせー客除けになんのよ」
「やっぱ、そういうの、くるんですか?」
「お袋ひとりだとな」
「あたしんちも、そういうの来ますよ。でも、こちらのほうが大変そう・・・・・・」
「そっか、そっちも。これ貸してやろーか?」

千冬のとんでもない冗談に、あすかが目を丸くして首と手を横に振るので、千冬がニタリと笑った。

「時々お店で仕事されたりするんですか?」
「たまにね。でも俺はレアキャラだよ」

あすかが、ふわりと笑った。千冬は、その笑顔を、めずらしそうに見る。

「用心棒ってやつ」
「この前お話したけど、お母さん、すごくたすかってるって」
「暇つぶしさ」

換気のため、千冬が表口をあける。
そのとたん、通りの向こう側で、嫌なアイドリング音がきこえる。
気圧されそうになる。
いくらこの町に暮らし、それらを見慣れているつもりでも、あの暴力の気配は、あすかはきらいだ。

蛇のような笑みをうかべた千冬が、舌をべろりとだしたあと、路地の奥から表にむかって、中指をたてた。

「あーいうのが、いるからよ」
「ありがとう、ございました」

嫌なバイクの音が消えてゆく。
事務的な挨拶をしたあと、あすかは原付で立ち去った。



千冬の母親も、凍り付くような美貌だ。その美貌に反して、とてもやわらかい人柄。自然、店も繁盛するようだ。千冬の店からの電話は比較的頻繁にかかってくる。

今日も、夏空の下、ごみごみした町並みを縫って、配達にでむく。このまえは千冬の母親だったけれど、今日は千冬が、若干眠そうな瞳で、配達を待っていた。

「杉浦さん」
「はい?」

店の名前を呼ばれたのかと思った。

「下の名前なんていうの?」
「あすかです」

伝票にサインする千冬の爪は、美しく整えられている。透明色のマニキュアもほどこされていて、指先まで美意識が詰まっている。自分の、切りっぱなしの丸い爪が恥ずかしくなる。

「前もきーたかもしんねーけど、何歳?」
「18歳。同い年ですよ」
「俺の年知ってたの?なんとなく同い年の気はしてたけど」
「お母さんに聞きましたよ」

千冬は、字もきれいだ。

「敬語いいよ」
「お取り引き先なのに。じゃあ、時々、敬語はなしで……」

千冬の店から出た空瓶をプラスチック箱につめ、原付の足下に置く。

「重いだろ?」

外まででてきた千冬が、あすかに気遣いの言葉をかけた。

「えー、空瓶ですよ、全然重くない」

路地沿いに、空瓶がおかれている。持ち帰るため瓶をひとまとめにするとき、いつも目に入るものがある。

ぴかぴかに磨かれた、大きなバイクだ。
シートは、高級な白猫のようにふわふわ。まるで千冬自身のようだ。


すごくきれいですね。


そうして気安く声をかけ、千冬にとって大切なものをカジュアルにほめることは、まだできない。
そう思っているあすかを見抜いたのか、千冬が切り出した。

「中古なんだよ、一応」
「すごく、きれい」
あなたみたいだ。あすかの脳裏に、そんなポエジーな言葉が浮かぶ。
ほんとうに美しいひとに、美しいとは伝えられない。

「家の手伝い以外にもいろいろバイトかけもちしてよ。今は家の手伝いだけだけどな」

たばこを吸いながら、千冬がぽつぽつと語る。

「へえ……」
いつまでもながめていたかったけれど、そろそろ帰って、再び店を開けなければ。母親の病院にも行かなければならない。
あすかは原付に乗り、そのバイクのそばから離れた。



千冬の店に配達におとずれ、いつものように原付をとめる。そのとき、背後から、すさまじい轟音をたててとまったバイク。あすかがあわてて原付を端によせると、降りてきた千冬に、かまわねーよと制された。
メットをとり、あまりに絵になる仕草で降りてきた千冬。
今日は、千冬の髪型が、いつもと違っている。どこかいつもと雰囲気が違う。あすかは数十秒考えたあと、核心にいたった。その「間」がおかしくて、千冬はケラケラ笑った。

「ストレート!?感じが変わるね!」
「アイロンでいっしょーけんめーやってんだよ。あすかのそれって、地毛?」

千冬が少しだけ乱れたストレートヘアをうっとおしそうにかきあげながら、あすかに尋ねた。

「伸ばしっぱなしで、乾かすだけ」
「マジかよ、アイロンなしでそんなサラサラになんの?俺も地毛はストレートなんだけどよー、乾かしとくだけじゃ、爆発すんだよな」
「いつものふわふわのほうが、やりやすい?」
「そーだね」

ワインの山を店の床に置いたあと、いつものように店から去ろうとする。こうして千冬と話す時間が、あすかにとって、わずかな楽しみだ。

立ち去ろうとするあすかの背中に、千冬が、澄んだ声をかけた。

「メシいかねぇ?」

お昼時をややすぎた時刻。そういえば、あすかはまだ昼食をとっていない。

「いーんですか?」
「昼やすみとかあんの?」
「配達にでるときは、しめてきてる」

千冬が、店の鍵をとり、歩き始めた。

「歩いていけるよ」

あすかも、原付を置いたまま千冬の後ろをついていく。

千冬の後ろを無言でてくてく歩き、十分ほど歩いてたどり着いたのは、古い食堂。にじみ出てくるような活気が感じられる。店の前には自転車やバイク、原付がたくさんとまっていて、あすかも、実はずっと気になっていた店だ。
千冬につれられて中に入ると、労働者でにぎわっている。

「ここ、入る勇気がわかなかった」
でも、気になってた。

店主らしき男性が、千冬に明るく声をかけた。「慎ちゃん」などと、下の名前に、ちゃんをつけて呼んでいる。もしかすると、千冬の店の常連客なのだろうか。その声に対する千冬の反応は素っ気ないけれど、千冬が怒った気配はなくて、その言葉になれているようだ。

運ばれてきた定食は、疲れた体に、実に染みた。

「おいしいですねーー!千冬さんいなかったら、一生はいることなかったかも」
「おおげさだろ・・・・・・」

同じものを食べながら、あすかの感慨を、千冬は受け流している。食べなれたものを、あたりまえのように食べる。どこか浮き世離れた千冬が、大衆的なものをぱくつく姿が、どこか珍しい。

「お店にたつ時、料理とかつくるの?」
「つくるよ?しじみ汁。そんだけだけど」
「すごいですね、美味しいんだろうな」
「お袋が今、泡盛扱いたいって言ってて」
「泡盛?あるよおすすめの。43度だけどすっごいまろやか、らしい、って、営業の人がゆってた」
「今度持ってきてよ」

来慣れているのだろう、誰も、千冬の姿を気にとめない。この特別な美しさを、誰も、美しいとはいわない。千冬は、美しいものを美しいといわれない場所を求めているのかもしれない。拒むところもない。千冬は、賞賛を堂々と受け取る。だけれど、美しいということばで消費されるとき、この人は、傷つくのではないか。この人に、正面から美しいといえて、この人を傷つけない人は、どんなひとだろう。いつのまにか、千冬にさそわれてごはんを食べられるような距離まで近づいたあすかは、味がしっかりついた心地よいごはんを食べながら、そんなことを逡巡する。

「おごるよ」
「いいよ、これ、ちょうどあるよ」
「おごるっつってんだろ。あ、じゃあ、端数だしてよ」
「51円だけ?」
「だせよほら端数」
「うん」

167センチのあすかは、千冬と、5センチ程度しか身長がかわらない。レジ前でのそんなほほえましいやりとりを、この店の女将が、あたたかく見守る。

「ごちそうさまでした」
「また食べにいこーぜ」
「うん、ありがと」
何か、試飲用のボトルでも今度おまけにつけておくか。礼の方法を考えながら、あすかは千冬に並んで歩いた。夏が終わりを迎えている。じわりと肌にはりつく熱気は、まだ健在で、あすかが手で体をあおぐと、それを見た千冬がやわらかくわらった。




店が休みの日。朝一で母親の見舞いに出向いたあと、少し離れたコンビニまで、自転車を走らせていた。本当は原付より自転車のほうが好きなのだ。ルノーの、くっきりとした緑色の自転車は、フォルムも色もとてもかわいい。

真夏日のなか、日焼け止めを念入りにぬりこみ、のんびりと自転車をはしらせていると、お腹のそこに響くような轟音が背後から近づいてきた。お客さんにも、こんな音をたてる人はいるから知っているし、そうだ、これは、この前聞いた音だ。大型のバイクの音。街路樹ごしに併走しているのは、みたことのあるデザインのタンク。

「千冬さん!」

ノーヘルの千冬が大声で何かを言っているようだが、あいにく、バイクの音で何がなんだかわからない。
千冬が前方をゆびさす。そのゆびのさきには、コンビニエンスストア。あそこに行っててということだろう。先に行ってしまった千歳を追いかけて、あすかも自転車を走らせた。

「原付じゃねーの?」
「普段は自転車だよ」

とっくに到着し、用を済ませたようすの千冬が、その瀟洒なバイクのまえで、あすかを待っている。

「どーしたんですか?」
「これやるよ」
「アイス?ありがとう!えっ、これが用事だったの?」
「わりーかよ」
「悪くない、ありがと」

千冬が着ている、胸元がざっくりひらいたTシャツ。絹のようにきめこまかく、まっしろな胸元が、少しの汗をはじき、きらきらとひかる。
その美しさが見ていられなくて、あすかは少しうつむいて、ソーダアイスをかじった。

色白くていいですね。
そう伝えられない。
日焼け止めは塗っているのに、どんどん焼かれていく自分の肌を見て、千冬のような玉みたいな汗ではなく、じっとりとした汗をかく自分が小汚く思えて。

そんな、粘度の高い劣等感に気づいてか気づかずか、千冬は少しだけつまらなさそうに笑った。

「少しまえ、店に変な客くるって」
「うん?ああ、言ったかなそんなこと。酔っぱらいのじーさんとかだよ」
「最近、変わった客とかいない?」
「暑いからかな、今は、平和だよ。そのかわりフツーのお客さんも少ないけどね」

千冬からの返事はかえってこない。
その真っ白な姿をみやったあと、あすかはまぶしく目をそらした。



千冬の店に配達に出向くことは、あすかの日課になった。きまったように千冬が店で待っていて、十分程度だけれど、軽く話すことができる。今日も酒を配達したあと、持ち帰るための空瓶が入っているカートンの切れ目で、あすかはざっくりと指をきった。どくどくと血がながれている。

「血ぃでてんじゃん」
「大丈夫ですよ」
「ちょっと待って」

ふつー男女逆ですよね。
そんなことを思って、そう伝えるのをやめた。
やめたことまで、この人には見抜かれていそうだ。

「ざっくりいってんな」
「紙で切れたときって痛いよね」
「なかなか治んねーしな」

千冬に素直に傷口をあずけている、同い年のこの子を、千冬はちらりと見やった。
幅広の瞳。鼻から、鼻の下のみぞをとおって、つんと突き出たような口元が特徴的だ。浅黒い肌には疲れが垣間見えるけれど、その疲れはヘルシーだ。頓着していない黒髪ストレートロングは、そのままで充分きれいに見える。千冬のこの金髪は、手入れのたまもの。あすかの、そのもちまえの、漆黒の髪の毛が、千冬は内心、実にうらやましいのだ。この子は、日々を、ぶれることなく、淡々と生きている。自分の運命をうけいれて、淡々と。日々、かわらずやってくるこの子に、千冬は、どんな時でも変わらず咲き続ける季節の花のような、力強さと美しさを感じている。

「ありがとう!」
「絆創膏貼っただけだけどな?」
「もうすぐ、夏休みが終わるよ」
「学校にはふつーに行くの?」
「うーん……。お母さん退院して、週二くらいで店やるって言ったけど……。とりあえず学校優先かなあ」
「S高だろ、あすかクソ賢いな」
「ふつうだよ……。土日は、配達にこようかな」

当たり前のように千冬と会えるのも、自分が存分に働ける夏休みだから。夏が終われば、どうなるのか。あすかはそれを考えたくなかった。

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