ファントムハイヴ家 9 / 10
09


「お話中失礼致します


晩餐の準備が整いましたのでお持ち致しました。

本日のメニューは当家のシェフバルドロイによる



牛たたき丼でございます」



セバスチャンはバルドが作ったと言ったがバルドはただ切って乗せただけである。


(バルドいい顔してるわね...)




「「DON?」」


差し出されたクラウスとシエルはただ目を丸くするだけで、


「これが晩餐…かね?



てっきり京懐石か何かかと」


丼を知らなかった。ただ戸惑うだけであった。



それに対し、丼を並べ終わったセバスチャンは目を輝かせながら、



「クラウス様ご存知でしたか…?









丼とは古来日本から労働者をねぎらうごちそうとして用いられてきたものなのです


ひと仕事終えた功労者に感謝とねぎらいの意を込めてふるまわれた料理…




 それが丼という食べ物なのです!!」



熱く語るセバスチャンの背後には幻覚なのだろうか……
荒ぶる波があるように見える。



「かつては庶民が憧れた宮廷料理『芳飯』というものが丼の元祖と言われております

それに…

凝りに凝った料理にクラウス様の舌は飽いていらっしゃるかと思いまして


最高級の肉をシンプルに味わって頂くためにこのような趣向をこらしてみました」



(さすがだね、セバスチャン。


私も女王陛下のメイドとして負けてられない!)



「はっはっは!!シエル!!

最高だよ

君はいつでも私を驚かせてくれる!





この業界にはユーモアに欠ける連中が多くてね、だが君とならこれからも楽しくやれそうだ」


「それは光栄だな」




「日本の丼がそんなに奥深い料理だったとはな

君は実に知識人だ」


クラウスは先程の興奮が冷めていない様子で傍で給仕をしていたセバスチャンに嬉々として話しかけた。

「恐れ入ります。


ナマエの提案により成功させることができました」




書斎は只今本で荒れているのである


「正に君らの言うとおり

イタリアの濃い料理に飽き飽きしていたところだ

頂くよ」



(あとは…)


「ワインの方はお口に合わせましてイタリア産のものをご用意いたしました」


手で合図されたメイリンは、、、


ただニコニコ笑っているだけで……



「……


メイリン!

ボーッとしてないで…
グラスにワインを」


セバスチャンはしびれを切らしてメイリンの耳元で囁いた。

しかしそれは逆効果であり、メイリンはそんなセバスチャンに顔を赤くし、挙動不審になっていた。


「たただめですだ。セバスチャンさんそんな人前でかかか、顔を真顔で…、、」

メイリンはワインを持った手元を震わせながらクラウスにワインを入れようと近付くが……

ワインに少しズレた所に水溜まりを作っているだけで注げていない。
幸い、クラウスは庭のあやめを見ており、こちらの様子に気付いていない。


しばらくクラウス以外の者たちが固まっていたが、とうとうテーブルクロスからもワインが零れようとした瞬間、


カタタンッ




シエルの傍に仕えていたセバスチャンがテーブルクロスを引き抜いた。


「…お…おおっ!!?

テ…テーブルクロスはどこにいった!?」

コップがテーブルにあたる音を聞いて、クラウスがテーブルの異変にようやく気付いた。



「クロスにちょっとした汚れがついていたから下げさせた。

気にしないでくれ」



「大変失礼致しました

ごゆっくりお食事をお楽しみ下さい」



そう言うと、セバスチャンはテーブルクロスを下げに行った。



「君の執事は実に有能だな
シエル」


「…有能?


あれは僕の下僕として当然の仕事をしたまでだ」



「厳しいな

だがきっと英国中捜してもあれだけの器量を持つ逸材は中々いないぞ?

それに今は女王のところのナマエもいるじゃないか」


「当然だ

だが僕が奴を雇っている理由はそれだけじゃない




――僕は


セバスチャンのスイーツより美味いスイーツをナマエの分以外まだ食べたことがなくてね


残念ながらナマエ女王陛下のものだからな」


「―ふははは!確かに君には実に重大な理由だな!」



「今日のデザートは奴の上にいくナマエのデザートだ

楽しみだ」



「お待たせ致しました

食後のデザートでございます。


本日は私、ナマエがアプリコットと抹茶のミルフィーユを作らせて頂きました」






≪≪prev

■■さいととっぷ


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -