さよならは言わずに
「名前、行くわよ」
「うん…」
ゴゴゴ…と凄まじい音を立てて近づいてくる新幹線。
しばらくすると、私の目の前でゆっくりと停止する。
ああ…これで終わりなんだ。
周りを見渡してみるけど―…見知った顔はない。
当たり前だよね、誰にも言ってないんだから。
今は皆、いつも通りの時間を過ごしてるんだろうな。
朝練…してる頃かな。
私がいなくなったって知るのは…あと少し、先。
ごめんね、皆。ごめんね―…俊。
さよならも言えない、弱い私を許して。
君に“さよなら”を言ってしまえば…永遠の別れのような気がしちゃうの。
だから、このまま行くね。
君と繋がってる…今の状態のまま。
ずるくて、ごめんね。
スーツケースに詰め込んだ荷物を車内に入れて、私も新幹線に乗り込もうとした。
その瞬間だった。
「―…! 名前っ…!」
愛しい君の、声がしたのは。