空の英雄への道
「あ、熱い……」
熱苦しい洞窟を歩くこと、かれこれ……何分たっただろうか?
溶岩が溢れ蒸気噴き出すドミール火山は、いつ何時も容赦無く灼熱地獄を味わわせてくれる活火山だった。
「グレイナル様とかってのはさ、いつもこんなとこにいるの?! 居住してるの?! 永住してるのーっ?! 熱さで頭がどーにかなりそう、死ぬ!! 皆、そー思わない?!」
「安心しろ……そうやってペラペラ喋ってる内は死なない」
「うぐぅ……タクトの鬼……」
「もう何とでも言え……」
言いながらタクトは先程まで被っていた帽子で自身を扇いだ。
ユランの言った通り、熱いのは皆同じ。
特にキルハとタクトは重装備なので余計辛かった。
「こうなると知ってたら、もう少しくらいは涼しい格好で来たんだけどなぁ」
「仕方ないよキルハ……それが戦士の宿命だよ」
鎧でガッチリ身を固めたキルハ。身体弱いのに大丈夫なのだろうか……と、口にはしないが本人以外の三人が全員思っていることである。
「てーかタクト、見てる方が熱くなるんだけど……それ、どうにかならない?」
「俺だってどうにかしたい。ていうか、文句だったらスカリオに言ってくれ」
「ヤだよ私、あの人苦手ー」
渋い顔を作り、ダーマ神殿に思いを馳せる。
“やぁそこの可憐なお嬢さん、一緒にフォース道を極めてみないかい?”
これが、ユランに対するスカリオの第一声だった。
「……タクト、よくあんな人の弟子になったよね……」
「いや、それを言うならお前もだろう。パノン……だったか? よくそいつの修行に耐えられるな……」
旅芸人である、ユランのもう一人の師匠・パノン(幽霊)は修行と称して様々な、ある意味過酷な修行を課してきたのだ。
例えば……
「敵を会心のボケで笑わせるとか、落ち込んでいる人を応援して立ち直らせるとか……終いにはダーマ神殿を逆立ちで十周って何だよ、そんな体育会系なことする必要あるのか?」
「師匠には師匠の考えがあるんだよー……多分」
「そこは自信持とうよ……」
「だってキルハ〜……修行し終わる度に、師匠ってば『本当にやってきたんだ、すごいね〜(笑)』って言うんだよ?!」
「それ、本気でやってくると思ってないんだろ?!」
考えもへったくれも無い。パノンは基本、ノリで生きていた人間だった……。
「でも、パノンって名前、昔良く聞いたよね。生きている頃はとても有名な芸人さんだったんだし、きっと並々ならぬ努力をされた方なんだろう」
キルハの言う通り、パノンは基本ふざけているような感じがするが、芸に関して右に出る者はいなかった。
「そんな方の幽霊の弟子だなんて、さすがユランさんです……!!」
「えへへ〜、それほどでも……」
「フィリア、むやみやたら褒めるんじゃない。こいつが照れ過ぎて足を溶岩の中に突っ込みかねない」
「ちょっとタクト?! 私のこと何だと思ってるわけ?」
「はいはい、ケンカは止めようねー」
もうすぐでケンカ勃発するところを、キルハがサラリと流す。このスキルはナザム村で培った包容力の賜物であった。すでに手慣れたものである。
「で、そういえばフィリアってグレイナル様と親しかったんだよね。どんな人なの?」
「グレイナル様ですか? グレイナル様は……」
そこで、フィリアの何かのスイッチが作動した。うっとりとあらぬ方向を見つめ、普段とは打って変わって饒舌に喋り出すのだ。
ユランはこれを、グレイナル・スイッチと呼ぶ。
「グレイナル様はとても素晴らしい方なんです……! 昔はよく遊んでもらい、昔話もよくしてくださいました。嗚呼、懐かしい……。グレイナル様のお話を聞くのが私の日課だったんです。幸せの一時でした……」
「そ、そっか……。えーと、じゃあ容姿とかはどんな感じなのかな?」
フィリアのグレイナル・スイッチを知らなかったキルハは、少し……いやかなりたじろぎつつも、肝心なことを尋ねた。パーティー内でフィリア以外、グレイナルの姿を知る者はいない。
「そうですね……全身に白を纏い、おヒゲが立派で凛々しいお顔立ちをした神々しい方ですわ……!!」
「全身真っ白なの……?」
と、ユラン。想像もつかない相手に少し混乱する。
「ヒゲが立派……老人か?」
と、タクト。頭の中ではヒゲを蓄えた……ちょうど長老・オムイのような老人を思い浮かべるが、全くの検討違いである。
「でも凛々しい顔立ちなんだよね……」
と、キルハ。凛々しいって何だろう……。
そのまま考え込む三人だった。……が、フィリアはというと、構わずグレイナルの武勇伝を語り始めた。
「グレイナル様は三百年前に世界を救った英雄という話は聞きましたよね。グレイナル様は向かって来る敵を、ちぎっては投げちぎっては投げ…………」
途中までは聞いていたが、その後の話はよく覚えていない。
覚えているのは……その直後襲ってきたゴードンヘッドを、「邪魔なさらないでください!!」と怒ったフィリアがザキで瞬殺したことである。
「早く頂上……着かないかな」
フィリアを除く三人は、切実にそう思った。
空の英雄への道
(頂上まで、あともうすぐ)
―――――
グレイナルへの崇拝が半端ないフィリアさんでした。