第三章 13-2
「このままじゃルーくんがダメになっちゃうと思うんです。お願いしますっ!」
というか、ルーフィンはもう既にダメ人間だと思う。
そう言いたくなったアルティナだったが、この状況でそんなことを言うことも出来ず。
リタはリタで、「もちろんです」とすぐに了承してしまっていた。
「わっ、ありがとうございます! それじゃ、まずはルーくんに出てきてもらわないとですね。とりあえずルーくんのとこに行ってみましょうか」
墓地から階段を下りると、正面から左にルーフィンの研究室はある。
やはり、ノックしても何の反応も無かった。
「やっぱり出て来ない、よね」
「リタさん、それじゃダメですよ。ルーくんに出てきてもらうにはノックの仕方にコツがいるんです」
「コツ……?」
「こうするんですよ」
コンコンコココンコン♪
リズミカルにノックをするエリザ。するとすぐにルーフィンが飛び出してきた。
「……エリザ? エリザなのかい?!」
しかし、目の前にいる(見える)のはリタとアルティナのみ。ルーフィンの顔には、はっきりと失望の色が浮かんだ。
「今のは……リタさん、あなたの仕業か? わざわざエリザのノックの仕方をマネするなんてタチの悪い冗談だ! こんなことは二度とやめてください!」
「えぇっと、私じゃないんだけどな……」
ノックしたのはあなたの奥さんですよ、なんて言っても絶対信じないだろう。
頭を抱えるルーフィンと困惑するリタ。
一番先に動いたのは、それまで傍観していたアルティナだった。
ずかずかとルーフィンの前までやって来たかと思ったら、思いっきりグーで殴ったのだ。
殴られたルーフィンは、しりもちをついて頬を押さえた。
「ええぇえっ!? アルーー?!」
「何してるんですか、アルティナさーん?!」
いきなりの剣幕に、その場にいた全員が驚いた。
そのまま激昂するのかと思いきや、案外静かな声で言葉を発した。
「……アンタは何も分かっちゃいない」
「何を……」
「自分の妻や研究ばかりじゃなくて、少しくらい周りを見たらどうだ」
言葉の真意を掴みかねるルーフィン。そこに、いかつい町民とおぼしき人物が研究室の上を通りかかった。
「おっ、ルーフィン先生! ちょうどいい、アンタに言いたいことがあったんだ。流行り病を止めてくれてありがとよ! 町の連中に代わって礼を言うぜ。あと……早く立ち直ってくれよ! 皆アンタを心配してるんだぜ」
そう言って、町民は通り過ぎて行ってしまった。
「な、なんなのだ一体……?」
呆然と呟くルーフィンに対し、リタはやっとアルティナの言ったことを理解したところだった。
(アルは、このことが言いたかったんだ……)
エリザも、ちゃんと分かっていたようで。
「リタさん……私の最後の言葉をルーくんに伝えてくれませんか?」
内容を聞き、リタは頷いてありのままをルーフィンに伝える。
「 ルーフィンさん、あなたが病魔を封印したことで救われた人達に会って欲しいと……エリザさんからのお願いです」
「エリザがそんなことを……。でもぼくは誰が病気になっていたかも知らない。あの時はお義父さんを見返すことばかりに気を取られてて……」
今になって気付いたらしい。ルーフィンは俯き、そして……
「……リタさん、アルティナさん。今から私を病気に苦しんでいた人達のところへ連れて行ってください。今さらですが、どんな人達が流行り病にかかって、どんな思いを抱えていたかを知りたいんです」
「私からもお願いします。きっとそれが必要なことなんです」
ルーフィンとエリザの二人からのお願いに、リタはにこりと微笑む。
「はい!」
断るわけも無かった。
(あなたに知って欲しいから)13(終)
―――――
アルティナは、ルーフィンへの不満が爆発したみたいです。
リタの元気が控えめだったのは分かっていただけたでしょうか。
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