第三章 08-2
怪物は、最初の攻撃がリタの盾によって防がれると、今度は攻撃をした方とは別の手を振り下ろした。
リタは攻撃を未然に防ごうと、とっさに扇を繰り出したが、扇は怪物の端の方を掠めただけだった。
とは言え、怪物からの攻撃を防ぐくらいの効果はあり、怪物は扇を避けるように距離を取った。
しかし、扇で攻撃した直後、リタの身体がふらりと傾いた。
足を踏ん張って倒れずにはいたものの、上体は安定せず、今にも倒れそうだ。
しかも、その間にも怪物はリタに襲い掛かろうとしている。
それを、アルティナが背後から袈裟懸けに斬り付けると、黄緑色の液が空中に飛沫した。
怪物が苦悶の声を上げている間に、アルティナはリタと僧侶に駆け寄った。
「おい、どうした?!」
「なんか……急に眠気が」
頭を振るが、それでも眠気は振り切れないらしい。まぶたを閉じないよう必死に堪えている。
「……さっきのあの甘い息のせいですわね」
冷静に言う僧侶は、リタに手を翳し、「すぐに終わりますわ」と何かポツリと呪文を唱えた。
すると、リタの眠気が嘘のように吹っ飛び、目が冴えた。
「目が覚めまして?」
微笑む僧侶を見て、パチクリと目を瞬かせ、首を傾げた。
「あなたが……?」
「さっきの借りが返せましたかしら」
猫を思わせる目をいたずらっぽく細める。
「あ、ありがとうございます!」
リタが感謝を述べると、そこにアルティナが一言。
「へぇ、ちゃんと僧侶だったのか」
「……どういう意味かしら?」
気のせいだろうか……僧侶の声のトーンがいくらか低くなった気がした。
「アンタ、外見からして相当胡散臭かったからな」
「なんですって?! 聞き捨てなりませんわっ!!」
……どうやらこの二人、相当相性が悪そうだ。
喧嘩が勃発しそうな勢いに、リタはハラハラと二人を見遣る。
しかし怪物が襲い掛かってきたことで、喧嘩はなんとか回避することが出来たのだった。
(良かった……)
こんなところで喧嘩をしている場合ではないのである。
「……リタさんっ! 古文書によれば、あの怪物――パンデルムの弱点は氷系の攻撃です!」
ルーフィンが、自分に一番近い位置にいたリタに大声を上げていた。
「氷……だったら!」
立ち止まり、呪文を唱えようと集中する。
「二人とも、そいつから少しだけ離れて!」
察したアルティナが飛び退き、遅れて僧侶が怪物から距離を置く。
二人が離れたことを確認したリタは、ありったけの魔力を注ぎ込み、呪文を発動させた。
「ヒャド!!」
怪物――パンデルムに氷塊が襲い掛かる。
弱点を突かれたパンデルムは、大ダメージを食らい、動けずにいた。
「今だ……アル!」
呼びかけと同時にアルティナが飛び出し、パンデルムとの距離を一気に縮めた。パンデルムの目の前で、剣を一思いに振り下ろす。
頭から一刀両断されたパンデルムは、怨恨のこもった声で、呪いの言葉を吐いていた。
「おのレ、のレ。わガ呪イよ……コのオろかナる者ドもに死の病ヲ……!」
アルティナの強烈な一撃により、パンデルムは動くことすらままならない。
追い打ちをかけるように、ルーフィンが満足げに声を上げた。
「やっと直りました……さあ、今だ! 封印の壷よ、悪しき魔をここに封印せん!」
すると、壷についている封印の紋章が輝き、たちまちパンデルムを吸い込んでしまった。
「ぎゅバばバばバば……」
抵抗することも出来ず、パンデルムは奇妙な叫びを上げながら、再び封印されていくのだった。
(病魔の呪いは、解かれた)08(終)
―――――
山場を乗り越えました!
うん……こんな僧侶もいていいと思うんだ。
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