第三章 05
「お疲れ様、ルーくんにお客様だよ。パパのお使いの人が古文書の解読が進んでるか聞きたいんだって〜」
「……入ってもらってくれ」
仕方なしと言った感じでルーフィンは三人の入室を許可した。エリザは彼を人見知りと言っていたが、人見知りとはなんだか少し違う気がしたリタ達である。
「今忙しいんだけどな……でもお義父さんの使いじゃムシも出来ないか。で、何の用で……って、そうそう、古文書の解読結果を聞きにきたんでしたっけ?」
「ルーくん、その前にじこしょーかい、じこしょーかい」
「ん〜それって意味あるのかい?面倒臭いな……」
ルーフィンは、ものすごく物ぐさだった。
「はじめまして……ですよね? 僕はルーフィン。考古学などの研究をやってます。あなたは……リタさんとアルティナさん? まぁ出来るだけ覚えておきますよ。……多分すぐ忘れちゃうけど」
サラッと失礼なことを付け足し、ルーフィンはさっさと本題に入った。リタは気にしなかったが、変わった人だなぁ……とは思っていた。
「古文書を解読した結果、流行り病の原因が一応判明しましたよ。……ことの起こりは100年前。この町の西でとある遺跡が発見されたことです。遺跡を発見したベクセリアの民は軽はずみにも遺跡の扉を開いてしまったそうです。その中に病魔と呼ばれる恐るべき災いが眠っているとも知らずに――」
その病魔こそが、今広がっている流行り病の正体というわけである。
「実際には病気というより呪いの一種だったようですね。当時の人々は病魔を封印し、遺跡の入口を祠で塞ぐことで呪いから逃れたといいます」
「じゃあ今、この町に流行り病が発生したのは……」
リタは地震騒動のことを思い出していた。
そして、その予想は外れていなかった。
「多分、この前の地震で祠の封印に何か異変が生じたのでしょう」
黒騎士に続き、ベクセリアの疫病。
あの大地震は、とんでもない二次災害を引き起こしていた。
これらだけでなく、きっと世界中で。
「さっすがルーくん!病気の原因が分かっちゃうなんて」
エリザは跳びはねるんじゃないか、というくらいにはしゃいで喜んだ。そしてやっぱり跳びはねた。隣にいたリタが両手を掴まれ巻き込まれてしまった。
「え……エリザさーん」
「あっ、ごめんなさい! やだ、またわたしったら」
エリザは夫のこととなると周りが見えなくなってしまうらしい、と鈍感なリタでも気付いた瞬間だった。
「病を治すには、祠に行って病魔ってのを封印し直せば良いってことか」
研究室に入って初めて、アルティナが口を開いた。
そしてルーフィンは、アルティナの問いを肯定した。
「その通り。まぁシロウトには難しいだろうけど……この町で出来るのはぼくだけかと」
「……じゃあアンタがこの町のために祠の封印を直しに行くのか」
重ねて質問されたことに、ルーフィンは「んー、」と考え込むように唸り、そして髪がぐしゃぐしゃになるのも構わず掻き乱した。
「それは……もし上手く行ったらエリザのお父さんだって、僕のことを認めてくれるだろうし、何よりあの遺跡を調べられる絶好の機会なんだから、行きたいのはやまやまなんですけど」
そこで、ルーフィンは呪いを封印する方法が書いてあるのだろう古文書を眺めながら溜息を一つ。
「でも遺跡には魔物が出るらしいし、わざわざ出かけていって怪我するのもバカバカしいよな……」
ルーフィンは、ものすごく物ぐさだった(二回目)。
どう対応すれば良いかも分からず、顔を見合わせるリタとアルティナ。
アルティナがここまで微妙な顔をしたのを見るのは初めてかもしれない、とか思ったり。
とりあえず、このことを町長に伝えてるため、研究室を出て町長の屋敷へと向かうことにした。
今回のことで分かったこと。それは疫病の正体、エリザは夫にぞっこん、そして、ルーフィンはとても変わっている面倒臭がりな学者、ということだった。
(ルーフィンさんと町長さんが上手くいかない理由、分かっちゃったような……)05(終)
―――――
ルーフィンって変わってるけど、エリザも結構変わってると思う。
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