天恵物語
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第十一章 01

どうして、こんなことになってしまったのか。
分からない。分からないまま、リタは熱に浮かされ朦朧とする意識の中にいた。まるで夢でも見ていたかのような錯覚を覚えるけれど、あれは紛れもない現実そのもの。全身に感じる痛みが、それを物語っている。
起き上がることが出来ないほどに、体が憔悴していた。体は健気にも元気を取り戻そうとしているのか、いくら寝ても寝足りないようで、こうしている内にもまた睡魔が襲ってくる。
――体が丈夫なことが、天使の取り柄だったはずなのに。
いや、天使だったからこそ、今もこうして生きていられるのだろうか。何度も高い場所から落ちているというのに未だ死にやしないのは、人間からしてみれば常軌を逸している。加えて、今回は落下する直前に重傷を負っていた。その新しい傷跡は、生々しく今も自分の体に刻まれていることだろう。それを残したのは、師と仰いだ上級天使。


「イザヤール、さま……」


浅い呼吸の合間にかすかな呟きが紛れる。それを聞く者は、今は誰もいない。
どうして、と尋ねても答えてくれる人はどこにもいない。本人さえも、答えてはくれなかった。
あの時、イザヤールに刃を向けられ、自分は呆然とそれを見ていた。最初はその意図さえも図りかねた。イザヤールが天使界を裏切るなんてそんなことあるわけがないと、そう思っていたから。――突然どこからか聞こえてきた、地を這うような低い声にイザヤールが膝をつくまでは。
見間違いではないか、そうでなければ夢だったのでは。いくら逃避したところで、事実は重たく自分の中に横たわっている。
いくら信じられなくたって、いくら考えたって、残された結果はただ一つ。
イザヤールは、天使界を裏切ったのだ。


「どうして……」


目尻から零れた涙が重力に従って枕元を濡らす。意識が浅く浮上する度に、夢に見た師を思い出しては涙が溢れていた。
どうして。何度も問いただした。それでもイザヤールは何も答えてくれない。
夢の中で何度も繰り返される現実が、ただただ苦しい。
まるで、悪夢のよう。










(夢の侵食)
01(終)



―――――
どシリアスからの開始ですが、第十一章始まりました!


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