第九章 31
「なるほど、話は分かりました。……モザイオのヤツ、何を考えているんだか」
眉間にシワを寄せたレッセが天井を仰ぎながらぼやく。
レッセにもモザイオとの約束を話したところ、案の定というか、あまり乗り気ではない様子だった。レッセはエルシオン学院の生徒であり、生徒会長でもある。事件のためとはいえ、規則を破るのには抵抗があるだろう。
「あのっ、嫌なら行かなくても大丈夫だからね! レッセはこの学院の生徒なんだし、無理して行く必要は……」
「あ、いや、別に嫌なわけじゃ……僕も行くよ。モザイオがアホやらかす前に止めたいし」
モザイオに対してはそこそこ辛辣なレッセだった。確か、敬語も使っていなかったはずだ。何となく気になったカレンは、何気なく尋ねてみる。
「レッセさん、モザイオさんとは親しげですけれど、付き合いは長いんですの?」
「え……いや全然親しくなんかないですよ! アイツとはただの腐れ縁っていうか」
実は、モザイオとは入学当時から知り合っていたのだが、最初こそ関係は良好だったように思える。一体どこで間違ってしまったのか、現在は生徒会長と不良という水と油の関係にまで至ってしまったが。
「とにかく、今はあんまり仲良くありません」
ふいと横を向き、レッセはキッパリ言い切った。どことなく頑なな様子が窺えるが、カレンは「そうですの、」と言うに止めた。
「それより、天使像までどうやって行くかですよ。……たぶん、先生が校舎を巡回しているはずなんですけど」
怪しい人物がいないか、というより抜け出す生徒がいないか見張っている、という意味合いの方が強いかもしれない、教師の見回りであるが、どうやって切り抜けるのか。レッセにとって一番の不安はそこだった。モザイオは日常的に見回りの目を盗んで抜け出しているかもしれないが、レッセはそんなことやったこともなく、勝手が分からず見つかってしまうかもしれない。
しかし、レッセの不安はアルティナという元盗賊の存在によって杞憂に終わるのだった。
「人数は?」
「一人、だと思いますけど……」
「なら楽勝だろ」
アルティナは、話はそれで終わりとばかりに、あっさり言ってのけた。
「あの、何が楽勝なのか分からないんですけど……」
「だから、見回りは一人なんだろ。屋上に行くくらいなら、別に何てことはない」
ますます分からない顔をするレッセだったが、リタは閃いたのか、ぽんと手を合わせる。
「そういえば、アルって昔盗賊だったんだよね」
「えっ、そうなんですか?!」
アルティナがカラコタの盗賊であったことは、レッセを除けば全員が知っていた。
「てことは、どんな建物だろうと忍び込むのはお手のモノ、的な?」
「今はやってねーぞ、そんなこと」
主にサンディの言葉に対して顔をしかめつつ、アルティナは否定しなかった。
「だとしたら、唯一の心配はアルティナの方向音痴だけということになるでしょうか……」
呟いたカレンは、冗談や意地悪を言っているようには見えず、むしろかなり真面目顔つきであった。またも、アルティナは渋い顔でげんなりと返す。
「……さんざん歩き回ったんだからもう迷わねぇよ」
裏を返せば、迷ってさんざん歩き回ったということだ。……その言葉を信じて、リタ達は今夜、サンディを含めた五人で屋上へと向かうこととなった。
約束の時間は今夜。深夜0時に天使像前だ。
(闇夜に紛れて)31(終)
―――――
盗賊アルティナの役に立つ時が来た!←
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