第九章 27
「図書館、ですか」
リタも昼食に合流してまもなく、幽霊特定の話をレッセから聞いた。何でも、特定するには図書館に行くのが良いというのだ。
「図書館というか……ちょっと特殊な場所なんですけど……生徒の立ち入りが制限されているんです」
そんな話、どこかでも聞いたような……とリタは既視感のようなものを感じたが、それはどこだっただろう。
それは、レッセの案内した先にあったものを見て思い出した。
「あっ、初代校長先生のお墓!」
学院に来た初日、リタがレッセと共に訪れた場所だ。その時、墓についての説明も受けた。
「確か、お墓は旧校舎の入り口、でしたよね?」
「はい。旧校舎には、書物がたくさん保管されているんですよ」
レッセは墓の裏手に回りながら説明した。何かを探るように墓石の後ろでごそごそと手を動かしている。
「こんなところに本当に入る場所がありますの……?」
カレンが少し疑わしげに、あらゆる方向から墓を眺めた。見る限り、本当に墓にしか見えないし、何より石造りだ。仕掛けがあるとは思えない。
「まぁ、見ててください」
レッセの少し得意そうな声とともにカチ、と何かが噛み合う音がした。
すると、墓の部分がスライドして、地下へと続く階段が現れた。その光景を初めて見た三人は唖然とするばかりである。
「わぁ、本当に開いた!」
「墓が開くとか……いいのか僧侶」
「そんなの知りませんわよ」
アルティナは一応、僧侶であるカレンに聞いてみるも、すげない答えを返された。
「エルシオン卿の建てた校舎ですから、この場所に墓があるんですけど……まぁ、この旧校舎は今や魔物が出没してしまう危険な場所でもあるので、生徒や魔物が出入りすることのないように墓で塞いだんでしょうね」
「魔物が出ますの?!」
「どうやら、使わなくなってからいつの間にか住み着いてしまったみたいで」
レッセはランプを灯しながらサラリと答えた。中には照明など無いので、とレッセはランプを持ってきていたのだった。
「暗いので、足元気をつけてくださいね」
「……だとよ、リタ」
「私限定?!」
「お前が一番危ないからだろ」
人よりも多少ドジが多いことを自覚しているリタはアルティナの鋭い指摘にうっと言葉を詰まらせる。
転ばないように、とリタが意気込む中、アルティナの後ろでカレンがボソッと呟く。
「心配なら心配とおっしゃればよろしいのに……」
「何か言ったか」
「いえ別に。空耳ではありませんこと?」
二人の間で、こんなやり取りをされるのは一体何回目か。
きっとアルティナには聞こえていただろうが、カレンは華麗にとぼけた。確信犯である。
「では、入りましょうか」
レッセが階段へ踏み出す。それに続いて、リタ達も階段を下りる。階段を下りきり、レッセの持つランプが照らされると、そこは、あたり一面が本棚で埋め尽くされていたのだった。
(墓の中の旧校舎)27(終)
―――――
フライングで旧校舎入ります。
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